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クラシック編はこちらの記事をご覧ください。
中古レコードの選び方〜クラシック編
この記事を担当:こうたろう
1986年生まれ
音大卒業後日本、スウェーデン、ドイツにて音楽活動
ドイツで「ピアノとコントラバスのためのソナタ」をリリースし、ステファン・デザイアーからマルチマイクREC技術を学び帰国
金田式DC録音のスタジオにて音響学を学ぶ
独立後芸術工房Pinocoaを結成しアルゼンチンタンゴ音楽を専門にプロデュース
その後写真・映像スタジオで音響担当を経験し、写真を学ぶ
現在はヒーリングサウンド専門の音楽ブランド[Curanz Sounds]を立ち上げ、ピアニスト, 音響エンジニア, マルチメディアクリエーターとして活動中
当サイトでは音響エンジニアとしての経験、写真スタジオで学んだ経験を活かし、制作機材の解説や紹介をしています。
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クラシック音楽編も様々なレーベルがあり、膨大な情報があるかと思いますが、ジャズ音楽の場合はどうでしょうか?
そもそもジャズの場合はクラシック音楽の「楽曲、演奏技術、録音音響、カッティング、表現力」というものに加えて、アドリブやプレイそのものを楽しむというエッセンスも加わっていますから、音響がいまいちでもプレイが好きだからOKという名盤はたくさんあることでしょう。
クラシックとは異なる録音技術が発展してきたジャズのレコードについて、選び方のポイントを解説し、筆者が元々ジャズピアニストとして活動していたこともあり、個人的な名盤も交えて紹介していきます。
二人の名録音エンジニア
ヴァン・ゲルダーが作り上げたエネルギッシュでダイナミックなジャズ録音は、その後のモダン・ジャズにおける基準となり、数多くのスタジオが彼の録音スタイルを模倣しました。
一方、デュナンの手法はジャズのリアリズムを重視するアプローチとして評価され、オーディオファイル向けの高音質録音に大きな影響を与えました。
この二人はジャズの録音、そしてジャズ音楽そのものを語る上で避けては通れない名前ですので、是非まず最初に覚えておきましょう。
どちらのエンジニアも、録音機材の選定やセッティングの工夫によって、ジャズの「音」を形作った立役者であり、彼らがいなければ今日のジャズ録音のスタンダードは生まれなかったと言えるでしょう。
ルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)

画像引用:Blue Note Records
ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder, 1924年11月2日 – 2016年8月25日)は、1950年代から60年代にかけてブルーノート(Blue Note)、プレスティッジ(Prestige)、インパルス(Impulse!)などの名門レーベルの録音を担当し、その革新的な録音技術でモダン・ジャズの黄金期を支えました。
彼の特徴は、クリーンでありながら力強いサウンド。特に、ピアノの明瞭さとホーンセクションの奥行きを際立たせる手法が、ジャズの録音におけるスタンダードとなりました。
ヴァン・ゲルダーの録音スタイルのポイントは、
- マイクの配置:楽器ごとに的確な位置を取り、自然な響きを生かす
- リバーブの使い方:独特の響きを持つリバーブ処理を施し、空間的な広がりを演出
- ダイナミクスの強調:音の厚みを最大限に活かし、エネルギーのあるサウンドを構築
彼の手がけたアルバムとしては、**マイルス・デイヴィスの『Cookin’』、ジョン・コルトレーンの『Blue Train』、ソニー・ロリンズの『Saxophone Colossus』**など、今なお語り継がれる名盤が多数存在します。
ヴァン・ゲルダーのスタジオでは、リボンマイク、コンデンサーマイク、ダイナミックマイクを巧みに使い分け、独自のバランスを作り上げていました。
使用マイクロフォン
(1) RCA 44BX
- 主に**ホーンセクション(サックス、トランペットなど)**の録音に使用
- リボンマイクならではの柔らかく滑らかな音質
- 低域の厚みと高域の自然な落ち方が、ブルーノートの音に独特の暖かみを与えた
(2) Neumann U47
- 主にボーカル、ピアノ、ベースの録音に使用
- カーディオイドまたは無指向性モードを選択可能で、ナチュラルな音の広がりを確保
- クリアで高解像度なサウンドが得られる
(3) Electro-Voice RE15
- ドラムのオーバーヘッドやパーカッションに使用された可能性が高い
- 指向性が適度に狭く、周囲の反響を抑えたシャープなサウンド
(4) AKG C12
- リード楽器やピアノに使用された可能性あり
- 高域の伸びが美しく、空間の広がりを強調する効果
ヴァン・ゲルダーは、当時の技術としては比較的「新しい」コンデンサーマイクを積極的に導入しながら、リボンマイクの柔らかさを活かすことで、明瞭さと温かみのバランスを取る録音を行っていたと考えられます。
録音機材とミキシングコンソール
ヴァン・ゲルダーは、市販のコンソールをそのまま使うことはせず、改造や自作機材を多く使用していました。
(1) Ampex 350/351
- モノラル録音時代の主力レコーダー(1950年代)
- **15ips(インチ・パー・セカンド)**のオープンリールテープを使用し、高音質を実現
- **特有のサチュレーション(音の暖かみ)**が、ヴァン・ゲルダー・サウンドの要素となる
(2) Scully 280
- 1960年代後半からのステレオ録音のメインマシン
- ヴァン・ゲルダーは、初期は2トラック録音、のちに4トラック録音へ移行
- Scullyの音はナチュラルでクリアながらも、テープの独特の厚みがある
(3) カスタムミキシングコンソール
- 市販のコンソールは使わず、自作のカスタムミキサーを構築
- 「どの機材を使用していたか」は公にされていないが、シンプルな設計で録音に特化
- マイクプリアンプやEQもカスタムされていた可能性が高い
ヴァン・ゲルダーのマイキング技法
ヴァン・ゲルダーの録音は、演奏者との距離感、響き、奥行きを大切にした配置が特徴です。
(1) ピアノ
- U47やC12をステレオで配置し、明瞭かつ響きのあるサウンドを確保
- 「ヴァン・ゲルダー・ピアノ」と称される独特の硬質なサウンドは、EQ処理とマイキングの工夫によるものと考えられる
(2) ホーンセクション
- RCA 44BXやU47をシングルマイクで録音(モノラル録音時代)
- 楽器との距離を適度に取り、音のエネルギーをしっかり捉える
(3) ベース
- Neumann U47を使用し、低域の存在感を強調
- マイクとベースの距離を短くし、ダイレクトでタイトなサウンドを得る
(4) ドラム
- シンプルなマイクセッティング(オーバーヘッド+バスドラム用)
- スネアやハイハットに近いマイク配置で、シャープな音を狙う
彼の録音は、ジャズのエネルギーを引き出すための明瞭さと奥行きが特徴です。
その要因として、
✅ EQを積極的に活用し、各楽器の明瞭度を向上
✅ 高い天井の響きを利用し、自然なリバーブ感を作り出す(ヴァン・ゲルダー・スタジオの構造が影響)
✅ 演奏のダイナミクスをそのまま残しつつ、パンチのある音を作る
ヴァン・ゲルダーの録音機材と技術は、ジャズの録音スタイルに決定的な影響を与え、現在でも「最高のジャズ録音」として評価されています。
ロイ・デュナン(Roy DuNann)

画像引用:Discoogs
一方、ロイ・デュナンはコンテンポラリー・レコード(Contemporary Records)の専属エンジニアとして、異なるアプローチでジャズの録音技術を進化させました。
彼の録音は、ヴァン・ゲルダーと比べてより自然な音場感と立体感を重視し、まるで演奏現場にいるかのようなリアリティを生み出しました。
デュナンの録音スタイルのポイントは、
- 超低歪みの録音:テープの歪みを極限まで抑え、楽器本来の響きをそのまま捉える
- 鮮明な高音域:サックスやトランペットの倍音成分を自然に引き出す
- ミキシングの透明感:過剰な処理を避け、演奏者同士の距離感を忠実に再現
特に、彼の録音した**ソニー・ロリンズの『Way Out West』、アート・ペッパーの『Meets The Rhythm Section』**は、音のクリアさと奥行きのあるサウンドで高く評価されています。
少ないマイク数、ワンポイント録音やペア録音を重視し、シンプルで自然な音作りを追求しました。
これにより、彼の録音は非常に立体的でリアルな音像が特徴的です。
使用マイク
ロイ・デュナンの使用したマイクも、特にシンプルかつ高品質なものが多かったとされています。彼の録音には、一貫して「自然さ」と「生々しさ」を大切にするマイク選びが反映されています。
(1) Neumann U47
- Neumann U47は、特にボーカルやピアノ、ドラムの録音に使われ、デュナンの録音でもしばしば見られます。
- 特にピアノやボーカルの録音で、深みと温かみを与えるために好まれたマイクです。
- U47の特徴であるリッチな低音と滑らかな高音が、デュナンの録音において非常に重要な役割を果たしていました。
(2) RCA 44BX(リボンマイク)
- ホーンセクション(サックスやトランペット)などの録音において、RCA 44BXリボンマイクが使用されることがありました。
- これにより、ホーンの音がソフトで、かつダイナミックに表現されました。リボンマイクの特性としては、やや低音寄りで、滑らかな高音が得られる点が特徴です。
(3) AKG C12
- コンデンサーマイクであるAKG C12は、特にリーダー楽器やボーカルの録音に使われました。
- 高域の透明感と広がりのある音場が、特にジャズにおける楽器のディテールを生かすために有効でした。
(4) Shure SM57
- デュナンは、ドラムやエレクトリック楽器に対してもShure SM57のようなダイナミックマイクを使用していました。
- 低価格でありながら、非常にクリアな音を捉えるため、特にドラムスネアやギターに好まれました。
録音技法と手法
ロイ・デュナンの録音スタイルは、少ないマイク数を使用して楽器の自然な響きと空間的な広がりを捕えることに重点を置いていました。
- デュナンは、録音後のミキシングでの処理を最小限に抑え、録音時のサウンドをそのまま反映させることを重要視していました。
- 「自然な音」とは、出来る限りのミキシング処理を避けることによって実現され、デュナンの録音にはほとんどエフェクトが使用されません。
- 録音での技術力を重視し、音の整合性やバランスをライブで作り上げる手法が特徴でした。
代表的な録音と名盤
デュナンが関わった録音は、どれもジャズのクラシックとして今なお愛され続けており、彼の録音技法が光っています。
(1) キャノンボール・アダレイ『Somethin’ Else』 (1958)
- デュナンが録音を担当したキャノンボール・アダレイの名盤。
- ここでのピアノやサックスの音色は、デュナンのマイキングとミキシング技法が影響しており、シンプルながらも豊かな音の広がりを持っています。
(2) アート・ブレイキー『Moanin’』 (1958)
- このアルバムは、ブレイキーのバンドのエネルギーとダイナミクスが非常に上手く録音されています。
- 特にドラムの力強さやホーンのディテールが非常に生き生きとした音で表現されており、デュナンの録音技術がしっかりと反映されています。
(3) ミルト・ジャクソン『The Jazz Skyline』 (1959)
- ミルト・ジャクソンのヴァイブの録音が光るこのアルバムでは、ジャズのアコースティックな美しさと、バンドのスムーズで緻密な演奏が強調されており、デュナンの録音技術の真髄を感じさせます。
デュナンの録音スタイルの特徴と影響
ロイ・デュナンは、最小限の機材とシンプルな手法で音楽の本質を捉えることを重視しました。これによって、ライブ感や自然な響きを損なうことなく、まるでその場にいるかのようなリアルな音像が生まれました。
- ワンポイント録音やペア録音は、ジャズの即興的なダイナミクスや臨場感を再現するための最適手法でした。
- 音楽の質感や空間の広がりを大切にし、演奏者同士の相互作用を録音に反映させたため、生々しさと自然な空気感がデュナンの録音の特徴となりました。
このシンプルかつ生き生きとした録音手法は、後のエンジニアたちにも大きな影響を与え、今も多くのジャズ愛好者に愛される音楽を作り出しました。
ジャズ音楽の名盤
基本的に二人の名録音エンジニアの特徴で振り分けるとわかりやすいかと思います。
ここからは、当アカデミーの管理人:こうたろうのおすすめするジャズの名盤をご紹介。
これは、録音やカッティングではなく、音楽面、演奏面、プレイの内容など含めた総合的な視点ですし、完全な独断と偏見で選んでおります。