笙(しょう)の合竹とは?和音の種類と指運びを徹底解説|伝統11種の合竹を図解で理解

投稿者: | 2025年4月3日

笙の手の移し方(合竹移行表)

合竹名 指の移し方
凡を離し上を押さえる
上を離し凡を押さえると同時に八を離し一を押さえる
乙 工千と一を同時に離して工と美を同時に押さえる
上を離し凡を押さえる
八を離し美を押さえると同時に乙を下にかえて押さえる
一 乞一を離し一を押さえると同時に凡を離し乙を押さえる
一 上一を離し八を押さえると同時に凡を離し上を押さえる
一を離し八を押さえる
一 乞 乙 美 下凡を離し一を押さえると同時に一と乙を離し美と下を押さえる
一 工千と一を同時に離して工と美を押さえる
一 美凡を離し上を押さえると同時に一を離し美を押さえると同時に乙を離し比を押さえる
乞 乙乞を離し上を押さえると同時に八と乞を離し一を押さえる
乞 乙乞を離し上を押さえる
乞 乙乞を離し上を押さえると同時に八と乞を離し美と下を同時に押さえる
下 工美を押さえると同時に下と上を離し乙と工を同時に押さえる
下 乞美を離し八を押さえると同時に上下乙を離し凡と乙を同時に押さえる
美 下比を離して下を押さえる
一 乞美を離し八と乙を同時に押さえる
工 一工と美を同時に離し一と千を同時に押さえる

はじめに|合竹とは「和音の魂」である

笙(しょう)の演奏の核となるのが、「合竹(あいたけ/がっちく)」と呼ばれる和音の集合です。
笙は単音よりもむしろ和音(同時に複数の管を鳴らす)を主とし、その美しい響きで「天から降り注ぐ光」を表現します。

この「合竹」は単なる和音のことではなく、歴史的・機能的に決まった構成音のセットを意味します。
この記事では、笙の合竹の仕組みや種類、そして各合竹を移動するときの**指運び(手移り)**までを、図表と実例を用いて徹底的に解説します。


第1章|合竹(あいたけ)とは何か?

「合竹」とは、複数の竹管を同時に鳴らして構成される決まった和音セットのことです。

笙には15本の鳴管があり、そのうち4〜6本を同時に押さえて吹くことで、和音を発生させます。
この和音セット一つひとつに「凡(ぼん)」「一(いち)」「上(じょう)」などの名称があり、それぞれが定まった音の組み合わせを持っています。

合竹の特徴は、ただのコード進行ではなく、“移り変わること”が前提の音組織である点です。
演奏中に滑らかに和音を移行させることで、笙特有の空中に浮かぶような持続和声が生まれます。


第2章|なぜ「合竹」というのか?名前の由来と意味

合竹という言葉には、以下のような意味が込められています。

  • 「合」= 合わせる、調和する
  • 「竹」= 笙の竹管(たけくだ)

つまり、複数の竹管を調和させて一つの響きにするという意図が込められているのです。
名称は、中国の雅楽に由来する命名法で、最低音の竹管の名前をとって合竹名とするのが基本です。

たとえば:

  • 「一」合竹:最低音が「一」管
  • 「上」合竹:最低音が「上」管

一部例外はあるものの、この命名ルールにより、笙譜では単に「上」「凡」などの記号が並ぶだけで、どの音群を演奏すべきかが分かるようになっています。


第3章|笙の代表的な合竹(和音)11種一覧

笙の合竹は様々な流派・時代により異なりますが、以下の11種類がもっとも基本的な伝統型です。

合竹名 構成音(管名) 備考
凡(ぼん) 凡・上・七・行・千 柔らかく広がる
乙(おつ) 乙・一・八・凡・上 透明で明るい
工(く) 工・美・千・比 引き締まった響き
上(じょう) 上・七・行・千 昇るような和声感
一(いち) 一・乙・美・凡・下 旋律的に多用
下(げ) 下・乙・美・比 中低域を支える
美(び) 美・乙・八・下・比 落ち着きと深み
千(せん) 千・行・七・上 天頂感のある明るさ
七(しち) 七・行・上・千 旋律上の安定点
行(ぎょう) 行・上・凡・千 終止に向かう時に使用
比(ひ) 比・乙・下・美 明確な終止感

第4章|合竹ごとの指の押さえ方と組み合わせ

各合竹は4~6本の竹管を押さえることで構成され、管の配置上、同じ指で同時に2本を押さえることは不可能です。
以下は例として「一」「凡」「乙」の指の組み合わせです:

◼︎ 一 合竹の運指例

合竹名 構成音 指の押さえ方(左右・指名)
一(いち) 一・乙・美・凡・下 一:左手親指(L1)
乙:右手人差し指(R2)
美:左手中指(L3)
凡:左手薬指(L4)
下:右手中指(R3)
乙(おつ) 乙・一・八・凡・上 乙:右手人差し指(R2)
一:左手親指(L1)
八:左手親指(L1、別ポジション)
凡:左手薬指(L4)
上:左手薬指(L4、移動)
凡(ぼん) 凡・上・七・行・千 凡:左手薬指(L4)
上:左手薬指(L4、同指移動)
七:左手人差し指(L2)
行:左手中指(L3)
千:右手親指(R1)
上(じょう) 上・七・行・千 上:左手薬指(L4)
七:左手人差し指(L2)
行:左手中指(L3)
千:右手親指(R1)
工(く) 工・美・千・比 工:右手親指(R1)
美:左手親指(L1)
千:右手親指(R1、交差)
比:右手中指(R3)
下(げ) 下・乙・美・比 下:右手中指(R3)
乙:右手人差し指(R2)
美:左手中指(L3)
比:右手薬指(R4)
美(び) 美・乙・八・下・比 美:左手中指(L3)
乙:右手人差し指(R2)
八:左手親指(L1)
下:右手中指(R3)
比:右手薬指(R4)
千(せん) 千・行・七・上 千:右手親指(R1)
行:左手中指(L3)
七:左手人差し指(L2)
上:左手薬指(L4)
七(しち) 七・行・上・千 七:左手人差し指(L2)
行:左手中指(L3)
上:左手薬指(L4)
千:右手親指(R1)
行(ぎょう) 行・上・凡・千 行:左手中指(L3)
上:左手薬指(L4)
凡:左手薬指(L4、重複)
千:右手親指(R1)
比(ひ) 比・乙・下・美 比:右手薬指(R4)
乙:右手人差し指(R2)
下:右手中指(R3)
美:左手中指(L3)

第5章|合竹の移り変わりと「手の移し方」

合竹は連続して滑らかに“移っていく”ことが求められます。
この動きを「手移(てうつり)」と呼び、特に重要なのは共通音を残しながら不要な指を離し、新しい指を加えていくことです。

たとえば、「凡 → 上」への移行では:

  • 凡を離し → 上を押さえる

共通している「七・行」などは残したまま、差分の音だけを滑らかに切り替えることがポイントです。

移行元 → 移行先(合竹) 移行の手順(手の動き/指の操作)
凡 → 上 凡を離し、上を押さえる
上 → 乙 上を離し、凡を押さえると同時に八を離し、一を押さえる
一 → 工(乙 工) 千と一を同時に離し、工と美を同時に押さえる
上 → 凡 上を離し、凡を押さえる
八 → 下 八を離し、美を押さえると同時に乙を「下」に変えて押さえる
凡 → 一 乞 一を離し、一を押さえると同時に凡を離し、乙を押さえる
凡 → 一 上 一を離し、八を押さえると同時に凡を離し、上を押さえる
八 → 一 八を押さえて一を離す
凡 → 一 乞 乙 美 下 凡を離し一を押さえ、同時に一と乙を離し、美と下を押さえる
千 一 → 工 美 千と一を同時に離し、工と美を同時に押さえる
凡 → 一 美 凡を離し上を押さえる → 一を離し美を押さえる → 乙を離し比を押さえる
乞 → 乙 乞を離し上を押さえる
乞 → 乙 乞を離し上を押さえると同時に八と乞を離し、一を押さえる
乞 → 乙 美 下 乞を離し上を押さえると同時に八と乞を離し、美と下を同時に押さえる
下 上 → 工 乙 美を押さえると同時に下と上を離し、乙と工を同時に押さえる
美 → 下 乞 美を離し八を押さえると同時に上下乙を離し、凡と乙を同時に押さえる
比 → 下 比を離して下を押さえる
美 → 一 乞 美を離し、八と乙を同時に押さえる
工 美 → 一 千 工と美を同時に離し、一と千を同時に押さえる

第6章|合竹の実践的な応用例と練習法

合竹の練習では、以下のステップで行うと効果的です:

  1. 一つの合竹を安定して鳴らせるようにする
  2. 次の合竹との“移り”を丁寧に確認
  3. 録音しながら和音の滑らかさを客観的に確認
  4. 実際の楽曲の中で登場する合竹を抜き出して練習

特に、合竹から合竹へ、1本ずつ指が移動していく過程を身体に覚え込ませることが重要です。
それが「笙らしい音のつながり」を作る鍵です。


まとめ|合竹は空間をつなぐ和音の架け橋

笙の合竹は、ただの「和音」ではありません。
それは一つひとつが**“次の和音に続く設計図”であり、時間と空間をつなぐ音の橋**なのです。

合竹を理解し、指の動きを覚え、響きの余韻を感じながら演奏すること。
その瞬間、あなたは単なる演奏者ではなく、響きの建築家になります。