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REVOXやSTUDERなどの往年の名機を愛用している方にとって、電源投入時の「バチッ!」という音や煙の立ち昇りは冷や汗ものの体験です。
筆者もREVOX B77を修理中に、まさにその場面に遭遇しました。

原因は、あの有名なRIFA製フィルムコンデンサー(特定済み)。
この記事では、なぜこのコンデンサーが爆発しやすいのか、技術的背景とともに解説し、安全な交換方法についてガイドします。
RIFA製フィルムコンデンサーとは?
そもそもフィルムコンデンサーとは何か?
そこからおさらいしていきましょう。
フィルムコンデンサーとは、薄いプラスチックフィルムに金属を蒸着させたものを巻き重ねた構造を持つコンデンサーです。
主に次のような役割を担います:
- 電源ラインに混入する高周波ノイズ(EMI)を除去
- 突入電流の緩和やバリスタ的な保護
家庭内にはスイッチングノイズ(冷蔵庫、蛍光灯、Wi-Fi、ACアダプタなど)が多数存在しており、これらが電源ラインを通じてB77内部に侵入してくると、モーター駆動系・録音再生アンプに悪影響を与えます。
そのため高周波ノイズ除去として機能しているわけです。
他にも突入電流・スパーク吸収(サージ保護)としての機能があります。
瞬間的な高周波成分や電圧変動を吸収し、他の回路や周辺機器への障害を防止する役割を担っているわけです
テープレコーダー電源ON時には一瞬だけ高電圧スパイクが発生することがある(インラッシュ電流)ので保護しているわけです。
電源ラインが不安定(ノイジー)だと回転ムラやサーボ制御不良、録音ノイズが生じるため、重要な存在であると言えるわけです。
REVOX A77やB77では、ACラインに並列に配置され、X2クラスの安全規格を満たした部品として使われています。
つまり、、、X2規格は安全ではないということになりますね。
✅ X2クラスの安全規格とは?
「X2クラス」とは、国際安全規格(IEC/EN 60384-14)において規定されたACライン用のフィルムコンデンサーの等級の一つで、主にラインとライン(L-N)間に接続されるノイズ除去用コンデンサーに適用されます。
分類 | 接続位置 | 想定される故障時のリスク | 用途例 |
---|---|---|---|
Xクラス | 電源のL(ライブ)とN(ニュートラル)間 | 感電なし(ライン間短絡) | ノイズフィルター、スパーク吸収 |
Yクラス | 電源ラインと接地間(L-GまたはN-G) | 感電・漏電のリスクあり | 感電防止・EMI除去 |
クラス | 定格電圧 | パルス耐圧 | 一般的な用途 |
---|---|---|---|
X1 | 高(>2.5kV) | 高い雷サージなど | 工業用途、高耐圧回路 |
X2 | 250〜275VAC(家庭用電源対応) | 2500V(1.2/50μsパルス) | 家電・オーディオ機器など一般用途 |
X3 | 低(120VAC以下) | 低サージ耐性 | 小型機器向け |
なぜRIFA製が多く使われたのか?
RIFA(現KEMET)は、1970年代から90年代にかけて、業務用機器や高級オーディオ機器で信頼性の高いコンデンサーとして広く採用されました。その理由は:
- 低ESR(等価直列抵抗)で高周波特性に優れる
- ノイズフィルター性能が高い
- プラスチックケースに比べて静電耐性が高い(と思われていた)
🔷 RIFA社の概要と歴史
RIFA(Radiotjänst Industriell Fabriks AB) は、スウェーデンに本拠を置いた老舗の電子部品メーカーです。
- 1942年:スウェーデンで創業。初期はフィルムコンデンサ、抵抗器、真空管などの製造を行う。
- 1980年代:Ericssonグループに統合され、通信機器用部品メーカーとして国際展開。
- 1990年代:コンデンサ部門がスピンオフされKEMET(アメリカ)に買収される。これ以降は「KEMET RIFA」ブランドとして存続。
- 現在:KEMETブランドで販売されていたRIFA型コンデンサは、多くがPMEシリーズとして残っている。
なぜRIFA製コンデンサーは爆発するのか?
問題は、このコンデンサーのケースに使われている紙含浸エポキシ樹脂にあります。
- 湿気を吸収しやすく、内部が劣化しやすい
- 絶縁体の分解によって内部短絡が発生
- スパークによって樹脂が発火し、破裂・発煙する
爆発の前兆として、写真のように、黒いタール状のものが漏れ出します。

しかし、この状態であっても、今回爆発したものとは違うもの。
おそらくこれもあと少しで爆発する状態といえるでしょう。
交換のタイミングは非常に簡単です。
未整備のRevoxを購入した場合は必ず交換すること。
逆に言えば、整備品と謳っている中古品を買う場合はフィルムコンデンサの交換をしているかどうか?を必ずチェックすること。
爆発と言っても大量の煙がでるだけですが、実際例えばライブ録音などの場合、お店で発煙すればほぼスプリンクラー作動案件レベルの量ですので、そう考えるとぞっとします。
部品調達

こちらは取り外したもの。
だいたいは、3本セットで売られていて、ebayで調達することができます。
代替品も手に入りますが、この形状でのものは日本ではまだ見つけられていません。
RevoxB型独特の形状であり、ネジ部分のところがフロント部分に出っ張って取り付けるようになっています。
RevoxのB型に関しては、フレームそのもののスペースにかなり余裕があるため、同じ形状のものじゃなくてもなんらか加工して取り付けることは可能ですので、日本国内でいい入手ルートを見つけることができれば追って記事にしていきます。
選定基準
- 耐圧:250〜275VAC
- 静電容量:0.1μF〜0.47μF(機器による)
参考メモ
- Panasonic ECQUシリーズ
- WIMA MKP-X2シリーズ
- EPCOS(TDK)B3292シリーズ
交換手順
交換にはかなり長いドライバーが必要。
今回動画では長いドライバーがなかったので、電源パネルを取り外すことなく、フィルムコンデンサーだけを引っ張ってケーブルを切断。
そこからはんだごてで旧はんだを溶かして新しくつけて移植という感じでやりました。
電源パネルの取り外しができれば簡単に交換可能です。
アナログ機器と安全の両立のために
RIFA製フィルムコンデンサーの問題は、静かに進行し、ある日爆発という形で顕在化します。
こうした予防可能なリスクをあらかじめ理解し、適切な交換を行うことで、私たちの大切なオーディオ機器を長く、安全に使い続けることができます。
また、途中でも紹介したようにライブハウスやコンサート会場で爆発となれば一大事で、最悪の場合スプリンクラーなどが作動し、(会場によっては自動で)消防が出動することも考えられます。
交換にかかるコストと手間は決して無駄ではありません。
それは、大切な音と時間を守るための保険であり、未来への投資でもあるのです。

音楽家:朝比奈幸太郎
神戸生まれ。2025 年、40 年近く住んだ神戸を離れ北海道・十勝へ移住。
録音エンジニア五島昭彦氏より金田式バランス電流伝送 DC 録音技術を承継し、
ヴィンテージ機材で高品位録音を実践。
ヒーリング音響ブランド「Curanz Sounds」でソルフェジオ周波数音源を配信。
“音の文化を未来へ”届ける活動を展開中。