この記事の情報リスト
先日ドイツのRevoxの復旧&整備の専門スタジオの方との話の中で、「今STTAモデルのリペアをしていると」話題になりました。
STTAモデルというものを知らなかったので、今回は徹底して調べてみようと思います。
本記事では、STTA仕様のA77がなぜ特別なのか、通常モデルとの違いや見分け方、そして将来的な投資価値について、初心者にもわかりやすく、徹底的に解説します。
記事の最後にはGPTリサーチで世界中から調べたSTTAの情報もまとめていますので、オーディオマニアさん、スチューダーRevoxマニアさんは是非最後まで楽しんでください。

この記事を担当:朝比奈幸太郎
1986年生まれ
音大卒業後日本、スウェーデン、ドイツにて音楽活動
ドイツで「ピアノとコントラバスのためのソナタ」をリリースし、ステファン・デザイアーからマルチマイクREC技術を学び帰国
金田式DC録音のスタジオにて音響学を学ぶ
独立後芸術工房Pinocoaを結成しアルゼンチンタンゴ音楽を専門にプロデュース
その後写真・映像スタジオで音響担当を経験し、写真を学ぶ
現在はヒーリングサウンド専門の音楽ブランド[Curanz Sounds]を立ち上げ、ピアニスト, 音響エンジニア, マルチメディアクリエーターとして活動中
当サイトでは音響エンジニアとしての経験、写真スタジオで学んだ経験を活かし、制作機材の解説や紹介をしています。
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Revox A77 STTA仕様とは?
“STTA”は “Staatliche Technische Testanstalt” の略で、ドイツの国家技術試験機関を意味しています。
この仕様は、放送局や研究機関向けに製造された特別モデルであり、国家機関による厳しい品質認証をクリアした証です。
A77の全体の生産台数のうち、わずか1%程度であるとされており、あまりにも希少価値の高いモデルであります。
通常モデルとの違い
- 速度が固定で、より安定した性能を発揮
- DIN端子や放送規格EQなど、特殊な入出力・音質仕様
- DINスケールのピークメーターを搭載し、業務使用に最適化
- ラックマウント可能なシャーシ構造も存在し、業務用機材としての堅牢性が魅力
速度は38cm固定となっており、19cmを使う選択肢がないあたりはさすが国営放送向けといえます。
何より特徴的なのが、VUメーター付近に感度切り替えスイッチがついています。
また、音声信号についてですが、信号が入ると自動で電源が入り、信号が5秒間途切れると自動でスタンバイモードになるという機能付き。
さすがは放送局向けの個体であり、失敗のないようにプログラミングされています。
また、設計(Revox社製モーター制御基板)上、早送り/巻き戻しは手動でのみ可能で、ロック機構はありません。
STTA仕様の見分け方と市場での希少性
見分ける3つのポイント
- 背面に “STTA” や “Bauart geprüft” のラベルや刻印がある
- 速度切替スイッチがなく、シングルスピード仕様
- メーター表記がVUではなく “nWb/m” などのDIN仕様
DINオーディオ端子(DINコネクタ)は主に1960~80年代のヨーロッパ製オーディオ機器で使用されています。
5ピンや3ピンの丸型コネクタが代表例ステレオのIN/OUTが1つのコネクタで賄える効率的な設計となっています。
DIN規格による安定性・信頼性が確保されるという点ではメリットになりますが、現代のオーディオ機器と非互換(RCAが主流のため変換が必要)なのと、パーツの入手が難しくなっているという点ではデメリットになります。
STTAはなぜ希少なのか?
STTA仕様のA77は生産数が非常に少なく、全体の1〜2%に満たないと推定されています。
主にドイツ国内の公共機関に納入されていたため、国際市場に出回る機会が限られており、今後の価値上昇が見込まれています。
ドイツの友人も、市場に出回ることはほとんどないため、あまりにも希少だと言っていました。
Revox A77 STTAは投資対象として優れている理由
投資としての5つの強み
- 絶対数が少ないため、需給のバランスが崩れると一気に価値が上昇
- 国家品質保証つきというブランド力
- アナログオーディオ人気の継続
- 実用品としての魅力(音が出せる資産)
- ドイツ製という信頼性と文化的価値
Revoxというブランド価値だけでも投資価値は十分にありますし、カメラでいうところのハッセルブラッド同様、将来的に価値は上がっていくしかないと考えるのが自然だと思います。
それに加えて国家品質保証モデルであるのと、その希少性から通常モデルよりも価値は高まると考えていいのではないでしょうか。
何よりも、(どういうわけか)音がめちゃめちゃいいらしいです。。。
筆者も実際に聞いたことはありませんが、ずば抜けて音がいいと。
注意点とリスク
- 改造・部品交換があるとオリジナリティが失われる
- 再生環境がDIN端子などに依存するため、実用に難ありな場合も
- 外観や付属品の状態で大きく査定が変動
将来的な売却を考えるなら?保存と記録のすすめ
- 整備履歴・STTAラベルなどの情報はしっかり保管
- 動作品として維持するために定期的な通電・稼働が推奨
- メンテナンスレコードやオークション相場スクリーンショットも保存
- 湿度管理・防塵対応など、物理的保存状態にも配慮を
まとめ:Revox A77 STTAは「使える資産」!
筆者自身がA77を毎日使っていて思います。
オーディオ好きにとっては至上の音。
毎日朝、コップ一杯の水を飲むよりも先にA77の電源を入れる。
そしてその音を楽しむ。
それはまさに至上の喜びです。
金塊を購入するのも投資価値があるでしょう。
しかし、A77やハッセルブラッドなどのビンテージ機材というのは、実際に使うという使うたびに受け取れるインカムゲインのようなものだと日々感じます。
Revox A77 STTA仕様は、ただのオープンリールデッキではありません。
それは、ドイツ放送文化と技術の粋が詰まった工業遺産であり、実際に音を楽しめる投資対象です。
保有することで、音楽的な楽しみと資産としての価値を同時に享受できる――それがA77 STTA仕様の最大の魅力です。
おまけ:GPTリサーチの情報整理
1. 歴史的背景 – STTA認証の起源とA77との関係
「STTA仕様」の誕生: Revox A77のSTTAモデルは、1970年代に登場した特殊バージョンで、録音機器における自動録音機能を強化したものです。
STTAは「自動スタート録音機能付き(Startautomatik)」を意味し、音声などの入力信号を検知して自動的に録音を開始し、信号が止まると一定時間後に自動停止する仕組みを備えていました。
この特徴から、当時の技術文献では**「監視業務向け**(Überwachungsaufgaben)のテープレコーダー」だと紹介されています。
資料によればSTTAは「自動テープ録音(selbsttätige Tonbandaufzeichnung)」に由来するとの見方もありますが、しばしば**「Staatliche Technische Testanstalt」(国家技術試験機関)**の略とも説明されます。
これは、このモデルが政府機関や技術試験所向けの要件を満たすために設計・認証された可能性を示唆しています。
実際、当時ドイツや周辺国では、公共放送局や郵政・通信当局などの国家機関が機器導入に際し独自の認証基準を設けることがあり、A77 STTA仕様もそうした基準への適合を意識して開発されたと考えられます。
1967年に初代モデルが発売されたRevox A77は、オーディオ愛好家からプロ用途まで広く普及し、約10年間で 29万台以上(推定)を生産する大ヒット機となりました。
その中でSTTA仕様が登場したのは、主に1970年代前半~中盤と推測されます。当時は冷戦下で通信傍受や放送監視の需要が高まっており、電話の盗聴記録、航空無線や海上無線の監視、騒音計測の自動記録など、長時間にわたり人手を介さず録音できる装置が求められていました。
Studer-Revox社はこうしたニーズに応えるため、A77の特別仕様としてSTTAモデルを開発。
自動録音・停止機能を追加し、公共機関による技術テストも経て導入が進められたとみられます。
STTA仕様は基本設計をA77(二次元テープレコーダー)のMkII~MkIVモデルに置きつつ、特殊用途向けの追加回路を組み込んだ派生版です。
すなわち、A77の堅牢なメカニズムと高音質設計をベースに、監視・ログ録音のための機能を付加したモデルとなります。
Studer社内では、Dolby搭載版やモノラル版、放送局仕様版(後述のORF仕様)などと並ぶ「スペシャルバージョン」の一つとして位置づけられていました。
STTAモデルが市場に登場したことで、A77は家庭用・業務用のみならず公安・通信分野のプロフェッショナル用途にも活躍の場を広げたのです。
2. 製造台数 – STTA認証A77 2トラック機の生産数
Revox A77全モデルの総生産台数は数十万台規模に上りますが、その中でSTTA仕様機は極めて少数しか製造されていない特殊モデルです。
正確な生産台数の公式記録は見当たりませんが、専門家やコレクターの間では「市場でも滅多にお目にかかれない」レア機種とされています。
例えばオークション出品の説明でも「extrem selten(極めて稀少)」と強調されているほどです。
複数の愛好家フォーラムの情報を総合すると、STTA仕様のA77はおそらく数十台から多くても数百台程度しか製造されていないと推測されます。
あるドイツの掲示板では「この特別モデルはそう頻繁に出回るものではない」と言及されており、市場流通量の少なさが指摘されています。
実際、長年Revox機を扱ってきた愛好家ですら最近までSTTAモデルの存在を知らなかったとの声もあり、このことからも生産数・流通数の極小ぶりがうかがえます。
STTA仕様は官公庁や特殊用途向けの受注生産に近い形だった可能性があります。
つまり不特定多数に市販されたのではなく、特定の法人顧客の要請に応じて限られたバッチのみ製造されたと考えられます。
そのため、一度に大量生産されたというより、必要分だけ少ロットで作られ、結果として総数は非常に少なくなりました。
現在残存する個体も極めて稀で、専門の中古市場やオークションでわずかに確認される程度です。
3. 使用事例 – 放送局・研究機関・国家機関による採用例
オーストリア放送協会(ORF): STTA仕様と密接な関係にある例として知られるのが、オーストリアの公共放送 ORF です。
Studer-Revox社はORF向けに専用のA77派生モデルを製造しており、「A77-ORF」と呼ばれる放送局仕様機が納入されました。
ORF仕様機は19/38 cm/sの高速2トラック機で平衡入出力(トランス付きXLR/LEMO端子)やテープテンション強化機能を備え、放送スタジオの録再・アーカイブ用途に使われています。
このORFモデル自体はSTTA(自動録音)機能を持ちませんが、「アーカイブ・盗聴用途にも適するとされた録音機」でもあり、監視的利用も念頭に置かれていました。
したがってORFはA77シリーズの特殊仕様を積極的に導入した放送局の一つであり、STTA仕様機についても何らかの形でテスト・採用した可能性があります。
西ドイツでは、郵政省・通信管理当局(いわゆるPTT)や公共放送(ARD各局)が音声記録装置としてRevox A77を採用していました。
中でも通信監理局や警察の無線傍受部門では、STTA仕様のような自動録音機が重宝されたと考えられます。
実際、資料にあるSTTAモデルの用途例には「電話(盗聴)」「航空無線」「海上無線」「騒音」といったキーワードが挙げられており、これはドイツ国内で警察の電話盗聴記録、航空管制や海難通信のログ録音、環境騒音のモニタなどに用いられた可能性を示唆します。例えば航空無線や海上無線の監視は当時郵政省電波監理局の任務でしたが、STTA機能で要通信のみ録音することでテープ消費を抑えつつ重要通信を記録できる利点がありました。
また電話録音では無音部分をスキップできるため、公安当局が証拠収集に使ったとも推測されます。
スイスやオランダなど、当時独自のPTT(郵便電信電話公社)を持つ国でも、長時間自動録音を目的にA77特殊モデルが採用された可能性があります。
例えばスイスPTTは研究所で通話記録や無線モニタを行っており、Nagraなどと並んでRevoxを用いたとの証言もあります。
一方、東ドイツ(DDR)では国家機関が西側製機器を公式採用することは稀でしたが、密かに入手したA77を通信傍受に利用したとの説もあります。
さらに学術研究分野では、動物の鳴き声や環境音を自動収集するためにSTTA機が試験的に使われた例も考えられます。
具体的な機関名の記録は残っていないものの、少なくともドイツ国内外の放送局・通信監視部門・法執行機関でSTTA仕様A77が活躍していたことは確実だといえます。
4. 技術仕様 – STTA仕様と通常モデルの違い
STTA仕様最大の特徴は、音声信号の有無を検知して録音を自動制御する専用回路を搭載している点です。
入力にあらかじめ設定した閾値以上の音声・信号が入ると約0.2秒以内に録音を開始し、信号が途絶えて約5秒(最大7秒程度まで可変)経過すると自動的に停止する設計です。
この「スタートオートマチック」回路は追加の電子基板として組み込まれており、従来の手動録音スイッチとは別系統で動作します。
STTA機の前面パネルには、通常のA77にはない追加ボタンが2つ設置されています。
これは各チャンネル(トラック)ごとに自動録音機能のON/OFFを切り替えるための**「自動録音スイッチ」**です。
たとえばトラック1にだけ自動録音を働かせ、トラック2は常時録音(手動モード)とするといった使い分けが可能でした。ボタンにはそれぞれ対応するチャンネル番号やAUTO/MANUALの表示ラベルが付けられ、押下で自動機能の有効無効を切り替える仕様です。
なお、この追加ボタンの実装に伴い、従来モデルに存在した「リールモーターOFF(巻き戻しモーター停止)」ボタンの位置・機能が置き換えられています(サービスマニュアルにその改造言及あり)。
内部構造では、メインの録音アンプ基板とは別に自動スタート/ストップ制御用の電子回路基板が増設されています。
この回路は入力信号をモニタする感度調整ポテンショメータ(前面または内部)と連動し、しきい値以上でリレーを作動させ録音モードに切り替えます。
サービスマニュアル(STTA追補版)にはその詳細な回路図が掲載されており、例えばElektrotanyaサイトでは**「STUDER REVOX A77 STTA」**の回路図PDFが公開されています。
それによると、標準機の巻取りモーター停止ボタンや関連回路を改造し、VOX制御と手動制御を切り替えるリレー回路が組み込まれていることが確認できます。
以上のように、Revox A77 STTA仕様機は通常モデルからの改良点が多岐にわたり、特殊用途に最適化されたテープデッキでした。
その設計思想は「必要なときだけ録音し、不要時はテープを節約する」という当時先進的なものであり、現在の音声起動録音(VOX)のはしりとも言える存在です。
公式資料に**「監視任務に特に適している」**とある通り、技術的にも運用的にも当時の国家的プロジェクトや放送・通信インフラを支えた重要な機材であったと評価できます。