この記事の情報リスト
現在でもバリバリ現役で活躍中という方もいらっしゃると思います。
Revoxシリーズは2025年の現代でもちゃんとパーツが供給されており、交換と修理をして使い続けることができます。
また、簡単な交換であればそこまで難しくなく、プラモデルを組み立てるようなレベルでできてしまうわけです。
この記事ではA77のピンチローラーの交換手順をしっかり把握しておきましょう。

この記事を担当:こうたろう
1986年生まれ
音大卒業後日本、スウェーデン、ドイツにて音楽活動
ドイツで「ピアノとコントラバスのためのソナタ」をリリースし、ステファン・デザイアーからマルチマイクREC技術を学び帰国
金田式DC録音のスタジオにて音響学を学ぶ
独立後芸術工房Pinocoaを結成しアルゼンチンタンゴ音楽を専門にプロデュース
その後写真・映像スタジオで音響担当を経験し、写真を学ぶ
現在はヒーリングサウンド専門の音楽ブランド[Curanz Sounds]を立ち上げ、ピアニスト, 音響エンジニア, マルチメディアクリエーターとして活動中
当サイトでは音響エンジニアとしての経験、写真スタジオで学んだ経験を活かし、制作機材の解説や紹介をしています。
♪この記事には広告リンクを含みます♪
交換時期
ピンチローラーの交換時期はゴムの様子を把握しながら決めていく必要があります。
べとつき始めてからでは遅いので、早めの交換が必要です。
基本編: ピンチローラー交換の基本手順
ピンチローラー交換作業には、工具と準備が必要です。
工具類はマイナスドライバー(プラスドライバーのモデルもあるそう?)これが前面パネル固定ネジを外す用です。
また、ピンセットや細いラジオペンチ(留め具やワッシャ取り外し用)、小型のマイナスドライバー(クリップのこじ開け用)など。
特にピンセットは複数あると安心です。
個人的には自作マイクを制作する時に使っている逆作動タイプのピンセットはかなり便利です。
アネックス(ANEX) ピンセット ステンレス製 逆作動タイプ作業前の準備
デッキの電源ケーブルを抜き、安全な作業スペースを確保します。
デッキは必ず横置きにしてください。
縦置きで使うイメージの強いA77ですが、スペースに余裕があるのであれば横置きの方が圧倒的にテープの動きも安定します。
また、小さなパーツを紛失しないよう、受け皿や布を敷いて作業すると良いでしょう。
前面パネルの取り外し

A77ではピンチローラーにアクセスするために前面のグレーのパネル(ヘッドカバー部)を外す必要があります。
まずは、黄色い線の下、各種調整ノブを取り外します。
横置きにして、上方向にひっぱれば結構簡単に取り外せます。
電源スイッチノブだけ結構硬い場合があるので、マイナスドライバーを複数併用しながら壊さないように慎重に上方向に取り外しましょう。
前面パネル下部の固定ネジ2本(赤矢印の箇所)を外します。
多くの修理書やガイドには2本とありますが、筆者のMKⅢでは、合計4本のネジを取り外す必要がありました。
ネジはそれぞれワッシャーが入っているので取り扱いに注意してください。
ワッシャーを下に落としてしまうと取り出すのが大変です。
パネル上部はプラスチック製のスナップピン(留め具)で固定されています。
ネジを外したらパネル全体を上方向にそっと持ち上げ、留め具を一箇所ずつ慎重に外してください。
ピンチローラーの取り外し手順

前面パネルを外したら、いよいよピンチローラー本体を取り外します。
ピンチローラー位置の確認: ピンチローラーはデッキ正面から見て右側のキャプスタン(回転する金属軸)に寄り添う黒いゴムローラーです。
右側の真鍮色部品がキャプスタン軸、左下の黒い円盤がピンチローラー。
通常停止状態ではピンチローラーはキャプスタンから離れており、交換作業がしやすい位置にあります。
念のため再生モードになっていないことを確認してください。
(再生時はピンチローラーがキャプスタンに押し付けられ、バネの力がかかった状態になります)。
留め具の取り外し: ピンチローラーは軸(シャフト)ごとアームに固定されています。
軸の固定方法として、小さな留め具(クリップまたはボルト)が使われています。
A77サービスマニュアルによれば「上部から軸の溝を押さえ、側面のボルトEを取り外す」構造になっています。
実際には、ピンチローラーとアームの隙間にC字クリップ状の留め具が見えるはずです。
この留め具が軸の溝に嵌まり、軸を所定位置に固定しています。
ラジオペンチなどで留め具の曲がった端をつかみ、慎重に引き抜くか外してください(クリップが跳ね飛ぶ恐れがあるので注意)。
もしネジ留めの場合は、小型ドライバーで側面の固定ネジを緩めて取り外します。
軸が空回りする場合は、軸上端の溝にマイナスドライバーを当てて押さえながら作業します。
ピンチローラーと軸の取り外し: 留め具が外れたら、ピンチローラーの軸ごと上方へ引き抜きます。
同時にローラー本体は横方向(キャプスタン側)に外れて外れます。
固着している場合はローラーを軽く揺すりながら引き抜いてください。
軸とローラーが外れたら、軸受け部の小さなワッシャに注意します。
ピンチローラー軸の上下には薄い白色のプラスチックワッシャ(シム)がそれぞれ1枚ずつ入っている場合があります。
これらはピンチローラーの回転をスムーズにしガタつきを防ぐスペーサーで、外した際に落ちたり紛失しやすい部品です。
外れたワッシャは丁寧に取り出して保管しておきます(後で必ず元の位置に戻します)。
旧ピンチローラーの取り外し完了: 取り外したピンチローラーと軸を観察し、汚れがあれば清掃します。
軸受け部分(ローラー中央の真鍮ブッシュ)は含油軸受(焼結ベアリング)になっており、清掃時に溶剤が付いた場合は後述のように再潤滑が必要です。
注意
これは絶対の注意ですが、ピンチローラー取り外しの際は、必ずアームの下に柔らかい布を敷くようにしてください。

白いパーツが中に入っているワッシャーですが、当然両面に挟まっています。
特にした部分が落ちやすいので注意してください。
新旧ピンチローラーの比較と取り扱い注意点
取り外した古いピンチローラーと、新品のピンチローラーを比較してみましょう。
経年劣化した部品と新品では、見た目や手触りに違いがあります。
硬化劣化の場合はゴムが硬化し、指で押してもあまり沈まないことがあります。
新品は適度に弾力があり、指で押すとわずかにへこむ柔軟性があります。
硬化したローラーでは十分な摩擦力が得られず、テープを滑らせて回転ムラや音揺れ(ワウ・フラッター)の原因となります。
また表面の使用劣化したローラーはテカリ(光沢)やテープ走行による段差・凹凸が生じている場合があります。
極端な場合、表面が溶けてベタベタになったり亀裂が入っていることもあります。
特に緑色系のローラーは経年で軟化し「溶ける」ように粘着質になることが知られています。
ベトベトのまま使うと、テープがローラーに巻き込まれて大惨事となりますので、中古品を購入したらまずはピンチローラーの状態からチェックするのも一つです。
新品ローラーの表面はマットな質感で、均一な円筒形状をしています。
新品ローラーは軸とのフィッティングが適切で、清潔な状態ではスムーズに回転します。
取り扱い上の注意: 新しいピンチローラーのゴム部分には油分や汚れが付かないよう注意します。
手の脂や工具の油分が付着するとテープ走行に悪影響を及ぼすため、清潔な手袋をするか手を洗ってから触りましょう。
またアルコール系溶剤の過度な使用は避けてください。
実際、ピンチローラーを市販クリーナーで強く拭きすぎた結果、ゴムが劣化し表面に凹凸ができてしまった例があります。
清掃する場合は無水エタノールを少量布に染み込ませ軽く拭う程度に留めます。
溶剤で拭いた後は完全に乾燥させてから使用してください。
新品ピンチローラーの取り付け手順
それでは新品ピンチローラーを取り付けます。
基本的には取り外し手順の逆順ですが、再組立時のポイントに注意しながら行います。
軸受けの清掃と注油: 古いピンチローラーの軸および軸受け(ローラー中央の真鍮ブッシュ部)を清潔な布で拭いて汚れを除去します。
劣化した古いグリスや汚れがあれば無水アルコールで軽く清掃します。
その後、軸受けに極少量の機械油を差して潤滑しておきます。
焼結含油軸受は油を含浸させてありますが、清掃で油分が落ちた場合は薄く注油することで回転が滑らかになります。
軸にも軽く油膜をまとわせておくと良いでしょう(余分な油はティッシュで拭き取ります)。
ワッシャ類の配置: 取り外し時に外した薄いワッシャ(シム)は元の位置に戻します。
まずピンチローラーアーム側の軸穴に下側ワッシャを1枚載せ、その上から新品ピンチローラーを軸に通して所定位置に収めます。
続いてローラー上部(軸が飛び出している側)にもう1枚のワッシャをはめます。
ワッシャは非常に薄くズレやすいので、確実にローラーの上下に位置していることを確認してください。
軸とローラーの装着: 下側ワッシャを敷いた状態で、ピンチローラーに通した軸を上から挿入します。
軸を穴に通しながら、ローラーをキャプスタン側から所定の位置へ滑り込ませます。
軸が正しく下まで差し込まれると、軸の側面の溝(クリップ用の溝)がアームの穴の外側に現れます。
留め具の固定
軸の溝に先ほどの留め具(クリップまたは固定ボルト)を取り付けます。
クリップの場合は溝に確実にはまるように指やピンセットで押し込んで固定します。
ボルトネジの場合は軸溝に合わせて差し込み、適切に締め付けて固定してください。
留め具が確実に装着され、軸が上下に浮かないことを確認します。
念のためピンチローラーを指でつまんで上下左右に軽く動かし、ガタつきがなくスムーズに回転するかチェックしてください。
必要に応じて留め具の位置を微調整します。
前面パネルの取り付け
ピンチローラー交換が完了したら、外していた前面パネルを元通り取り付けます。
上部のスナップピンを穴の位置に合わせ、軽く押し込んで「パチン」とはまるのを確認します。
左右・中央の3箇所すべてのピンが正しくはまったら、下部の固定ネジ2本を締めてパネルを固定します。
最後に各操作ノブやピッチコントロールノブ(装着されている場合)も正しい位置に戻してください。
基本動作テスト: 電源を入れ、テープをセットして再生モードにし、ピンチローラーが正常にキャプスタンへ押し付けられるか観察します。
交換直後はローラー表面が完全に馴染んでいないため、数巻きテープを走行させて様子を見ます。テープの蛇行や異音がなく、安定して走行すれば基本交換作業は完了です。
交換後の効果確認: 交換後はテープの走行安定性(ワウ・フラッター)の改善が期待できます。
実際、劣化したローラーを交換したところ、19cm/s(7½ips)再生時の回転ムラが従来の0.04~0.05%の変動から約0.03%に安定したとの報告があります。
同様に音の揺らぎや走行ノイズも低減するでしょう。
上級編〜アライメント調整と詳細なチェック方法
ピンチローラー自体の交換ができたら、上級者向けとしてテープ走行系のアライメント(調整)を行うことで、デッキ本来の性能を最大限引き出すことができます。
ここでは、ピンチローラー圧の調整やテープパス(走行経路)のチェックなど、専門的な調整手順を解説します。
ピンチローラー圧(押圧力)の調整
新品ローラーに交換しただけでも走行は改善しますが、ピンチローラーの押し圧(テープをキャプスタンに押し付ける力)が規定値からずれていると最適な性能が得られません。
Revox A77ではこの圧力を調整する機構があり、サービスマニュアルに従って再調整が可能です。
標準押圧の規定: Revox公式サービスマニュアルによれば、ピンチローラーの押圧力は約1.5 kg(3.3ポンド)に調整されます。
これはテープ走行中にピンチローラーを引っ張り、テープ速度が僅かに低下し始める(音量が目に見えて変化し始める)点で測定される値です。
具体的には、再生モードでテープを走行させた状態でピンチローラーをキャプスタンから少し引き離すように力をかけ、テープが滑り出す直前の力を計測します。
その値が1.5 kg前後になるよう調整します。
測定方法: 実際の調整にはバネばかり(スプリングスケール)が用いられます。