Duende(ドゥエンデ)|Avishai Cohen(アヴィシャイ・コーエン)
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イスラエル出身のベーシスト、アヴィシャイ・コーエンが2012年に発表したデュオ作品『Duende(ドゥエンデ)』。
ピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツとの緊密な対話に焦点を当てたこのアルバムは、コーエンのキャリアの中でも特に内省的で、アコースティック・ジャズの極致と評されています。
録音はスウェーデンのNilento Studioで行われ、エンジニアのラース・ニルソンがその透明感あふれるサウンドを創り出しました。
ここには「音楽の魂(Duende)」というタイトルの通り、静寂の中に燃える情熱が息づいている。
1️⃣ アルバム概要(Album Overview)

画像引用:Amazon
項目 | 内容 |
---|---|
タイトル | Duende |
アーティスト | Avishai Cohen & Nitai Hershkovits |
録音日 | 2012年2月〜3月 |
スタジオ | Nilento Studio(スウェーデン・ヨーテボリ) |
レーベル/カタログ | EMI / Blue Note(日本盤 TOCJ-90075) |
録音エンジニア | Lars Nilsson(ラース・ニルソン) |
リリース年 | 2012年 |
主要メンバー | Avishai Cohen(Bass, Piano)/Nitai Hershkovits(Piano) |
2️⃣ 制作背景と録音エンジニア
Nilento Studioは、スウェーデンのヨーテボリ郊外にある名門録音スタジオ。
創設者ラース・ニルソンは、もともとプロのトランペッターとして活動していた人物で、クラシックからジャズまで幅広いアコースティック録音に定評があります。
Nilentoは可変式の音響壁と自然残響の美しさで知られ、スタインウェイD型グランドピアノを常設。
コーエンが求めた「音楽の呼吸感」を精緻に捉える環境が整っていました。
本作では、エンジニアのニルソンが録音からマスタリングまで一貫して担当。
使用機材はPro ToolsベースのAvidシステム、マイクはNeumann U67やAKG C414などのクラシックマイク群が中心であると公式サイトの機材リストから推定することができます。
録音は完全なデュオ構成で、ピアノのステレオ空間とベースの重心を丁寧に配置。マイキングは近接+ルームマイクのハイブリッド方式と見られ、ピアノの響きが自然な奥行きをもって再現されている。
3️⃣ 音楽内容と演奏分析
アルバムは、二人の会話のようなインタープレイで貫かれている。
リーダーのコーエンが低音で呼吸をつくり、ハーシュコヴィッツがそこに音の陰影を加える。
特に注目したいのが、代表曲「Criss Cross」は、モンクの原曲をベースにしながら、リズムの崩し方と再構築が見事。
ベースがメロディを引き受ける瞬間、ピアノは伴奏に回り、役割が入れ替わるような瞬間がある。
演奏全体に共通するのは「間(ま)」の美学であり、リズムの余白が聴き手に深い静寂を与える。
録音的にも、ピアノの残響尾部(リバーブテイル)が繊細に残り、ベースの指板ノイズや弦の倍音が生々しく捉えられている。
4️⃣ 国際的評価と批評
英語圏のレビューでは『The Guardian』が「コーエンの長所がすべて発揮された作品であり、欠点は皆無。控えめで完璧なデュオ」と絶賛する声が聞かれます。
『All About Jazz』誌も「このデュオは新しいパートナーシップの出発点であり、コーエンの新たな表現の扉を開いた」と評しています。
『PopMatters』は「全曲が緻密に構築されながら、即興のエネルギーに満ちている」と高評価を与えた。
一方、日本の評論家やオーディオファンの間では、録音の透明感が特に話題。
あるレビューでは「ピアノは温かく、ベースは芯が太い。定位も明確で、Nilentoらしい自然な音場」と記されている。
ただし、一部のオーディオ系ブログでは「録音レベルが高めで、システムによってはやや硬質に聞こえる」との指摘もあった。
5️⃣ 再発・エディション情報
本作はLP化されておらず、初出はCDとデジタル配信のみ。
日本盤(TOCJ-90075)は2012年7月にBlue Note Japanから発売。
米国ではSunnyside Recordsから2013年に再リリースされた。
音源はいずれもラース・ニルソンによるオリジナル・マスターを使用し、後年のリマスター情報は確認されていない。
配信版は16bit/44.1kHz(CD相当)で、ハイレゾ配信は未実施。
6️⃣ 私のレビュー(Personal Impression)
コーエンのトリオといえば、その独特の作曲フォームとスタイルでハマる人はとにかくハマる。
美しいミニマル系サウンドと、繊細かつダイナミックなリズム感が融合した見事なトリオであります。
「Criss Cross」のコーエンのアルコでのメロディはモンクファンも納得でしょう。
ハーシュコヴィッツとの呼吸感も抜群、タッチは繊細で、コーエンの音を聴きながら呼吸しているようです。
録音も演奏も「無駄のない美しさ」に貫かれており、夜の静けさの中で聴くと、まるで時間が止まったような体験を得られる。
🗂 シリーズ:ジャズ名盤アーカイブ
本記事はシリーズ「ジャズ名盤アーカイブ」の一部です。
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