このページでは金田明彦氏についての情報をアーカイブしていきます。
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金田 明彦(かねた あきひこ)は、日本のオーディオエンジニア・回路設計者。
秋田県出身で秋田大学を卒業後、同大学教育文化学部で助教授を務めた経歴を持つが、大学の物理学教官として以上にオーディオ用回路設計の研究者・技術者として広く知られている。
1970年代にオーディオ業界でブームとなったDCアンプ(直流結合アンプ)を提唱した第一人者の一人であり、それまで常識とされた手法を覆す革新的な設計で現代アンプの基本形を築いた人物。
その設計思想はアンプのみならずマイクロフォン、録音機器、ターンテーブル駆動回路など音響システム全般に及び、愛好家から「金田式」と総称される独自のスタイルを確立している。
経歴
金田明彦は秋田県に生まれ、秋田大学を卒業後の1960年代より同大学で理科系教員として勤務しました。
大学では物理学関係の教育に携わっていたが、その傍ら趣味の延長としてオーディオアンプの自作と研究を続けていた。
1973年、30歳代半ば頃とみられる金田氏は、雑誌『無線と実験』に自身初の回路記事となる「B級無帰還DCパワーアンプ」の設計・製作記事を発表。
この直結型(DC)アンプはトランジスタによるB級増幅ながら出力にコンデンサーを使わない当時画期的なもので、発表から1年も経たないうちにその音質が高い評価を獲得しました。
その後も連続してDCプリアンプやA級DCアンプなどの設計記事を同誌に投稿。
従来の常識に囚われない独創的なオーディオ回路を次々と発表していきました。
大学教員として在職中もオーディオ研究は精力的に続け、1970年代から80年代にかけて金田氏の設計する「金田式DCアンプ」はオーディオ愛好家の間で一つのムーブメントとなります。
1980年代には既に秋田大学助教授として教鞭を執っていたが、オーディオ技術者・設計者としての知名度の方が高く、専門雑誌での執筆や講演活動などを通じてオーディオ界に影響を与え続けていました。
2007年3月に秋田大学を定年退官。
その後も引き続き精力的に執筆と設計活動を続けています。(後述)
技術的業績
DCアンプの開発と普及
金田明彦氏最大の技術的業績は、オーディオ用DCアンプ(直流結合アンプ)の開発と普及にあります。
彼が1973年に発表した差動2段増幅の直結アンプは、その後のオーディオ用アンプの原型とも言える画期的な回路でした。
当時の一般的なトランジスタ式アンプでは、直流成分を遮断するため入力段や負帰還回路に大容量の電解コンデンサを挿入するのが当たり前でした。
しかし、金田氏のDCアンプは信号経路上のカップリングコンデンサを可能な限り排除、0Hz(直流)まで利得がある増幅を実現します。
この設計によって「ケミコン(電解コンデンサ)が音を悪くしている」と示し、従来見過ごされていたコンデンサ類の音質への影響に注意を喚起したのである。
事実、金田式アンプの登場以降は音質特性を謳う高品質な電解コンデンサが各メーカーから製造されるようになっており、従来の回路手法も見直されていきました。
また、金田氏はアンプ回路の負帰還(NFB)信号の扱いにも大胆な工夫を凝らしています。
初期の金田式アンプには「無帰還」(NFBをかけない)設計のものもあり、当時主流だったNFB偏重の設計思想に一石を投じます。
さらにブートストラップ回路など測定上の特性を稼ぐための慣習的手法を排し、直結増幅と定電流負荷によるクリーンな増幅を追求。
その結果、従来は当たり前とされた手法に対し疑問を抱いていた設計者やマニアたちに新たな指針を与え、金田氏のDCアンプは登場後わずか1~2年でアンプ設計の概念を塗り替えてしまったと言われています。
事実、1970年代後半以降は国内外の高級アンプにおいて直結DCアンプ構成が次第に標準化し、金田氏の影響力の大きさがうかがえます。
また、トランジスタだけでなく真空管を用いたDCアンプの設計も行っており、半導体・真空管を問わず直結増幅のメリットを活かす回路を探求しました。
アンプの電源部にも工夫を凝らし、超高速応答の直流安定化電源や高速スイッチング電源、さらにはバッテリー駆動まで積極的に取り入れて、電源から音質を劣化させる要因を取り除く試みにも先鞭をつけている。
これら金田式アンプの独創的なアイデアは、後のオーディオ機器設計に多大な影響を与え、「現代では当たり前」の高音質アンプ手法の礎となりました。
DC録音方式
金田明彦氏はアンプ開発に留まらず、録音から再生まで一貫して直結方式を貫く「DC録音方式」を提唱・実践したことでも知られています。
彼はスタジオや生演奏の録音段階から信号経路にコンデンサなどの色付け要因を排除することにこだわり、独自のDCマイクロフォン・プリアンプを開発。
初期のDCマイク
現在金田式バランス電流伝送DC録音を行っている五島昭彦氏の使うDCマイク(金田明彦氏監修)は無指向性マイクですが、最初期のDCマイクは指向性マイクによるXY方式の録音でした。
この「金田式DCマイク」はマイクカプセル直後に直結増幅回路を挿入した構成で、信号の微小な電気信号をそのまま直流カップリングで増幅するため極めて高い鮮度を保てるのが特徴となります。
金田氏はDCマイクを含む録音システム全体を直結アンプで統一。
イコライジングやミキシングなどの信号加工処理を一切施さない録音手法を追求しました。
彼の理念は「タイムマシンで音楽の現場に立ち会うような体験」を再現することであり、1980年代末には自著のタイトルに「時空を超えた音楽再現」と掲げるほど、その理念を鮮明に表現しています。
2000年代に入ると、門下生だった五島昭彦氏が立ち上げた「Time Machine Records」という録音レーベルに関与し、最新の金田式DC録音システムで収録した原音を無加工でアルバム化するというコンセプトを掲げます。
録音エンジニア:五島昭彦について同レーベルでは金田明彦氏の理念と哲学を承継し、ワンポイント・ステレオペアマイクによるシンプルな収録スタイルで、ジャズやクラシックのライブ録音を中心に、録音からCD制作、配信まで一貫して金田式DCシステムを用いて制作されています。
こうした活動により、録音芸術の領域にも応用され、金田明彦氏の音が作品として市販されるまでに至っています。
金田式DC録音:ジャズ作品 金田式DC録音:クラシック作品金田式バランス伝送
2000年代後半以降、金田氏はさらに「金田式バランス電流伝送」と呼ばれる新たな技術コンセプトを提唱。
従来は前段から後段へオーディオ信号を電圧で伝送するのが一般的でしたが、金田氏は信号を電流で伝送する方式に着目し、バランス(平衡)接続と組み合わせることで外来ノイズに強く音質劣化の少ないシステムを実現しました。
具体的に、プリアンプの出力を電流出力とし、パワーアンプ側でそれを受けて電圧に変換するIVC(電流電圧変換)回路を採用、機器間の伝送を電流モードで行う方式となります。
この電流伝送技術を自らのDCアンプシリーズに導入し、2010年代には従来の電圧伝送方式から電流伝送方式へシステム全体を切り替えることで大幅な音革命を達成しました。
この成果はMJ誌上で順次発表され、その後「電流伝送方式オーディオDCアンプシステム」という専門書にまとめられています。
音楽ファンのための自作オーディオ
電流伝送方式の半導体および真空管プリアンプ,半導体および真空管D/Aコンバーター,A/Dコンバーターなど,10機種ほどを収録
また、金田式バランス電流伝送は、デジタル録音システムにおいても威力を発揮。
DSD方式の高音質録音チェーンにも応用されます。
FETと真空管を組み合わせたハイブリッドDCマイクやバッテリードライブの高精度A/Dコンバータなど、電流伝送対応の録音再生機器を自作・発表しており、その一連のプロジェクトは「バランス電流伝送DSD録音システム」としてMJ誌2016~2018年頃に掲載中。
金田明彦著書リスト(加筆中)このように、金田式バランス伝送はアナログ・デジタルの壁を越えてオーディオ信号の純度を極限まで高める試みと言え、現代においても革新的なオーディオ技術として注目され続けています。
活動の中心媒体
金田明彦氏の長年活動の中心となっているのは、誠文堂新光社が刊行するオーディオ専門誌『MJ無線と実験』(旧誌名:無線と実験)である。
彼は1973年7月号の初登場以来、同誌において「DCアンプシリーズ」と題する連載記事を半世紀以上にわたり執筆。
この連載では毎回自作オーディオ機器(プリアンプ、パワーアンプ、フォノイコライザ、DAC、ADC、マイクアンプ等)が紹介され、回路図から製作法、試聴記まで詳細に解説されている。
金田氏の記事はMJ誌において常に高い人気を誇り、“MJでもっとも人気の高いアンプ製作者”と評されるほど読者から支持されています。
MJ誌主催の「MJオーディオフェスティバル」では金田氏が自作機を披露し講演を行うのが恒例となっており、雑誌上だけでなく実際の音を通じて読者・愛好家と交流しています。
執筆スタイルは極めて実践的。
記事を読んだ愛好家が自ら製作に挑戦できるよう回路図やパーツリスト、調整方法まで丁寧に解説している点も特徴です。
実際、記事を手本にDCアンプを製作する自作マニアは後を絶たず、雑誌連載を補完する形で有志の製作記や試聴会レポートがウェブ上のブログ等でも多数公開されている。
思想・哲学
金田明彦のオーディオ設計哲学は一貫して「原音忠実再生の追求」にあります。
彼は音楽信号に余計な色付けや歪みを加えるあらゆる要素を嫌い、回路からコンデンサやトランスなど不要な素子を排除、可能な限りシンプルかつハイスピードな伝達系を構築しようと努めてきました。
挑戦哲学
1970年代当時、オーディオ設計の主流だった「測定上の特性を重視するあまり、大量のNFBや多段回路で安定度を犠牲にする手法」に対し、金田氏は「常識理論はまったく信ずるに足りない」と真っ向から異議を唱え、最終的な音のリアリティを重視する設計に邁進しました。
また、金田氏はその発言の過激さ・率直さでも知られています。
例えば「石(トランジスタ)で作った交流アンプ(普通のアンプ)は耳を破壊する機械だ」とまで紙面で言い放ったこともあり、ネット上で物議を醸したこともありました。
しかしこれは従来の設計手法では微細な音楽信号が失われてしまい、知らず知らず聴覚的快感を損ねているという彼なりの警鐘でもあったわけです。
同様に、CDをはじめとするデジタル音源についても「聴覚を破壊する」と酷評し、長らくデジタルオーディオを全面的に否定していた時期もありました。
しかし2000年代後半には、次第にデジタル技術にも取り組み始め、2008年には自身初のD/Aコンバーター(DAC)を発表し、続いてA/DコンバーターやCDラインアンプの開発にも着手しました。
デジタル機器への参入は彼の中で大きな方針転換であり、「嫌っていたCDを、金田式DACによって肯定できる音にした」と自ら語っています。
ここにも、「最終的に良い音が得られるか否か」を判断基準とする金田流の実験精神が表れています。
金田氏の思想でもう一つ重要なのが「時間軸を超えた音楽体験」へのこだわりであります。
優れたオーディオ装置によって再生された音楽は、まるで録音現場・コンサートホールにタイムスリップしたかのような臨場感をもたらすと教えています。
著書『時空を超えた音楽再現』シリーズのタイトルにも現れている通り、金田氏はオーディオを「時間と空間を超越して音楽家の演奏と対峙する手段」として捉えています。
この哲学は、録音から再生まで人為的なイコライジングや編集を極力排した作品づくり(前述のTime Machine Recordsの試み)や、自宅試聴室をコンサートさながらの生々しい空間に仕立て上げる情熱にも表れています。
著作
長年の活動において、金田明彦は自身の設計理念とノウハウをまとめた多数の著作を残している。代表的な単行本としては、まず1989年と1990年に上下巻で刊行された『時空を超えた音楽再現 オーディオDCアンプシステム』。
これは金田式DCアンプの原理と実践を網羅的に解説したもので、音響機器で如何に音楽の臨場感を再現するかという哲学的考察から具体的な回路例までが示されている。
続いて2003年には『オーディオDCアンプ製作のすべて 上巻』を刊行し、雑誌連載で発表した回路を体系的に再編集して初心者にも分かりやすく解説
2008年には『完全対称型オーディオDCアンプ』を出版し、差動合成による左右対称回路の徹底追求という当時の最新トレンドを反映した内容となっている。
さらに2010年には『最新オーディオDCアンプ―音楽ファンのための自作オーディオ最新13種 2008-2010年』を発表し、デジタルオーディオ対応機器を含む近年の集大成的作品を紹介しています。
この他にも、2013年に前述の電流伝送方式の成果をまとめた『電流伝送方式オーディオDCアンプシステム』シリーズ(プリアンプ&デジタル編、パワーアンプ&録音編の2巻)を刊行。
また、雑誌MJにおける連載記事自体が金田のライフワークであり、それら記事は必要に応じて書籍化されてきました。
金田氏自身の思想や手法を余すところなく綴った文章は、一部のオーディオ愛好家にとってバイブル的な存在となっている。
業界に与えた影響
金田明彦がオーディオ業界にもたらした影響は計り知れない。
技術面では、彼の提唱したDCアンプ思想が1970年代以降のアンプ設計の主流を大きく変化させた。
それまで当然視されていたカップリングコンデンサやブートストラップ回路の使用に再考を促し、結果として高音質部品の開発やシンプルな直結回路の普及につながりました。
金田氏がいなければ現在当たり前となっている高性能アンプの多くは違った形になっていたとも言われ、海外のエンジニアを含め多くの設計者がその影響を公言しています。
日本国内でも、金田の薫陶を受けたエンジニアがオーディオメーカーで活躍した例や、彼の名に触発されて起業したハイエンドオーディオメーカーなども登場しています。
アマチュアオーディオの世界においても、彼の回路記事を追いかけて自作に挑む「金田式フォロワー」は数え切れず、部品調達から製作・調整・試聴に至るまで情報交換する愛好家コミュニティが形成されています。
インターネット上には金田式アンプの製作記や測定データ、聴感インプレッションをまとめた個人サイトやブログが多数存在、各地で有志による金田式アンプ試聴会も開かれており、完成した自作品を持ち寄って金田式ならではの音を体験・議論する文化も育ってきており、金田氏本人もそうした催しにゲスト参加し、自ら設計した最新機器をデモンストレーションすることがあります。
録音エンジニアの中にも金田式DC録音システムで収録された音源のリアルさを高く評価する者もおり、実際に金田明彦氏の手がけた金田式バランス電流伝送DC録音システムを使って五島昭彦氏が収録したジャズライブ盤は「究極のライブ録音」として噂になるほどである。
究極のジャズライブ録音総じて、金田明彦氏は日本のみならず世界的なオーディオ技術史における革新者の一人と言えます。
現在の活動
80歳代となった金田明彦だが、2020年代においてもその活動は衰えを見せていない。
MJ誌の「DCアンプ」連載は続行中であり、近年は最新テクノロジーも積極的に取り入れている。
たとえば光カートリッジ(光電型レコード針)専用のDCプリアンプをシリーズで発表しており、2022年末から立て続けにFET版、真空管版、そしてNutube(真空管素子)とトランジスタを組み合わせたハイブリッド版と、コンセプトの異なる試作機を連続発表。
これら光カートリッジ対応プリアンプは、リチウムポリマーバッテリー駆動による純直流電源や、最新のSiC-MOSFET、さらにはデジタル録音規格DSDへの対応まで視野に入れた意欲作であり、金田氏の探究心が現在も旺盛であることを示しています。
また、金田氏は自作機を引っ提げて各種イベントにも登壇中。
2024年5月には第6回MJオーディオフェスティバルにおいて、自ら開発した光カートリッジ用DCプリアンプの最新モデルを披露し、その設計思想や音作りについて講演を行いました。
会場には幅広い世代のオーディオファンや業界関係者が集まり、金田氏の健在ぶりとその作品の音に聴き入ったという。
連載の通し番号もNo.295(2024年秋号時点)に達し、まもなく300号の大台に迫ります。
このように金田明彦は現在もなお新たな機器の開発に取り組み、その成果を発表し続けています。
令和の時代に入ってもオーディオ愛好家たちに刺激と指針を与え続ける生ける伝説的存在であり、その動向は今後も大いに注目されています。