「デューティー比は抵抗だけで決まる」の謎を解く|交換必須のタイマーICとパルス制御の秘密

Revoxの修理中、キャプスタンモーターの制御回路(NE555)を見ていたとき、師匠がボソッと言いました。
「いいか、こいつのデューティー比は、コンデンサ容量は関係ない。抵抗値だけで計算できるんだ」

一瞬、耳を疑いました。
「え? 発振回路って、抵抗(R)とコンデンサ(C)の組み合わせで時間を決めるものじゃないの?」

実は、ここに回路設計の美しい「割り算のマジック」が隠されています。
今日は、シンセサイザーの音作りや、モーター制御の核心である
「デューティー比(Duty Cycle)」について、数式アレルギーのエンジニアでも膝を打つように解説していきます。

後半ではRevoxのレストア、主にキャプスタンモーター基盤に搭載されているタイマーICのパーツ購入ルートも紹介しています。

第1章:そもそも「デューティー比」とは何か?

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電気には「直流(ずっとON)」と「交流(波)」がありますが、デジタル制御やモーター制御では「パルス波(矩形波)」という、四角い波を使います。
スイッチを高速でON/OFFしている状態ですね。

1. 部屋の明かりでイメージする

スイッチをカチカチと高速で切り替える場面を想像してください。

  • ONの時間が長く、OFFが一瞬
    1. →→ 部屋は明るい
  • ONの時間が短く、OFFが長い
    1. →→ 部屋は暗い

この「1回のサイクルのうち、ONになっている時間の割合」デューティー比(Duty Cycle)と呼びます。

  • ONとOFFが半々(50:50)
    1. →→ デューティー比 50%(正方形の波)
  • ONが少しだけ(10:90)
    1. →→ デューティー比 10%(トゲのような波)

2. 音とモーターへの影響

  • モーターの場合(Revox):
    デューティー比が高いほど、電気が流れる時間が長いので、モーターは力強く、速く回ります。
  • シンセサイザーの場合:
    デューティー比50%の矩形波は「ポー」というクラリネットのような音(奇数倍音のみ)。
    比率をずらしてパルス幅を狭くすると「ビー」という鼻詰まりのようなオーボエ/弦楽器的な音になります。

つまり、デューティー比を操ることは、エネルギー量や音色を操ることそのものなのです。

第2章:なぜ「コンデンサ」は関係ないのか?

さて、ここからが本題です。
一般的に、NE555のようなタイマーICで波を作る場合、「抵抗(R)」に電気を流して、「コンデンサ(C)」というバケツに水を貯める時間を利用します。
だから普通は、周波数(テンポ)を変えるにはCの値も重要です。

しかし、「比率(デューティー比)」に関しては話が別です。

NE555の教科書的な仕組み

NE555でパルス波を作る時、充電(ON時間)と放電(OFF時間)は以下の抵抗を通ります。
(※一般的な無安定動作の場合)

  1. ONの時間(充電): 電気は抵抗
    1. RARA​ と RBRB​ の2つを通ってコンデンサに貯まります。
      • 距離は
        1. RA+RBRA​+RB​
  2. OFFの時間(放電): 電気は抵抗
    1. RBRB​ だけを通って逃げていきます。
      • 距離は
        1. RBRB​

ここで「割り算」が起きる

デューティー比(D)の計算式を分解してみましょう。

【1. デューティー比の基本式】

                 ONの時間 (充電)
デューティー比 = ──────────────────────
                 全体時間 (充電 + 放電)

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実際の回路定数(抵抗Ra, Rb と コンデンサC)に置き換えてみます。

【2. 抵抗とコンデンサを代入】

          (Ra + Rb) × C
D  =  ────────────────────────────
       { (Ra + Rb) × C } + { Rb × C }

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ここでよーく見てください。
分数の「上(分子)」にも「下(分母)」にも、すべての項に × C が入っていますね?

分数のルールにより、共通する C はすべて約分(キャンセル)されて消えてしまいます。

【3. コンデンサ(C)が消滅した最終形】

        Ra + Rb
D  =  ───────────
        Ra + 2Rb

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式の中に「C(コンデンサ容量)」がいなくなりました。
つまり、コンデンサが大きくても小さくても、比率(%)は抵抗値(RaとRb)のバランスだけで決定されるのです。

第3章:なぜこの設計が「プロの仕事」なのか?

なぜ、コンデンサ容量に依存しない設計が優れているのでしょうか?
それは、「部品の劣化特性」に関係があります。

1. コンデンサは裏切る、抵抗は裏切らない

エンジニアならご存知の通り、電解コンデンサは経年劣化で容量が抜けたり(ドライアップ)、温度によって容量が変化したりしやすい部品です。
もし、コンデンサの容量変化で「デューティー比(モーターへのパワー供給率)」が変わってしまったら?
気温が変わるたびにテープの回転トルクが変わるような、不安定なデッキになってしまいます。

2. 抵抗値は安定している

対して、抵抗(レジスタ)は温度変化にも強く、経年劣化も少ないパーツです。
デューティー比を「抵抗値の比率」だけに依存させる設計にしておけば、コンデンサが劣化して「周波数(キーンという音の高さ)」が変わってしまったとしても、「ONとOFFのバランス(エネルギー効率)」は崩れないのです。

これが、Revoxや業務用機器が何十年経っても(多少ガタがきても)動作し続ける理由の一つです。
回路設計者は、「劣化しやすい部品」の影響を最小限にするために、数式上の相殺(キャンセル)を利用しているのです。

第4章:Revoxの回路図で確認してみよう

前回読んだ回路図をもう一度思い出してください。
NE555(IC1)の周りに繋がっている抵抗(ギザギザ)と、可変抵抗(トリマー)がありますね。

https://note.com/embed/notes/n71a26f5f78cb
  • S-SPEED (スイッチ)
  • Trimmer (半固定抵抗)

これらを調整することで、抵抗値のバランス(

RARA​

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RBRB​

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の比率)が変わり、デューティー比が変化し、結果としてキャプスタンモーターの回転速度が制御されます。

修理の際、もし「回転が不安定」ならコンデンサ(C)を疑いますが、「基準スピードが全く合わない」なら、この比率を決めている抵抗(R)やトリマーの接触不良を疑う。

というよりも、タイマーIC自体はレストアの際は他のコンデンサ類と同様交換必須のパーツです。

2025年時点ではまだピンタイプのタイマーICが購入できますので、必ず交換しておきましょう。

[114051]タイマーIC NE555L-D08


「抵抗だけで決まる」という法則を知っているだけで、トラブルシューティングの切り分けが秒速になります。

おわりに:数式の裏にある「設計思想」を読む

「デューティー比は抵抗だけで決まる」
というのは、単なる計算テクニックではなく、「信頼性」をどう担保するかという設計思想の教えでした。

  • コンデンサ = 時間や絶対値を決める(劣化しやすい)
  • 抵抗 = 比率やバランスを決める(信頼性が高い)

回路図を読むときは、ただ電気の流れを追うだけでなく、
「なぜここは抵抗で分圧しているのか?」「なぜここでCをキャンセルさせたのか?」
そんな「設計者の意図」まで読み取れるようになると、エンジニアとしての視座が一段高くなります。

明日スタジオに入ったら、シンセのパルス幅(Pulse Width)ツマミを回してみてください。

その音色の変化の裏側で、抵抗たちが健気に比率を保っている姿が目に浮かぶはずです。

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