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オープンリールテープレコーダーの修復・調整において、オシロスコープは非常に重要な測定器です。
アナログ機器特有の信号の流れや電気的な異常を、目に見える形で確認できる唯一のツールと言っても過言ではありません。
この記事では、オシロスコープとは何か、どんな場面で役立つのか、そして初心者にもわかる使い方と波形の読み方まで、オープンリールの修理という実践に即した形で徹底解説します。
オシロスコープとは?
オシロスコープ(oscilloscope)とは、電気信号を時間軸に沿って波形として表示する測定器です。
音声信号や高周波の振動、パルス、ノイズなど、電圧の時間的な変化を「目に見える形」で観察できます。
▷ 基本構成
- 縦軸(Y軸):電圧(V)
- 横軸(X軸):時間(s)
- プローブ:回路に接続して信号を測定する
- トリガー機能:波形表示を安定させる
なぜオープンリール修理に必要?
オープンリール機器は、以下のようにアナログ電気信号を多用しています。
▽ 主な用途
用途 | 測定対象 | 理由 |
---|---|---|
音声再生 | 再生アンプの出力波形 | 音が歪んでいないか、左右の信号が均等かを確認 |
録音調整 | バイアス発振回路の出力 | 適正な周波数(約100kHz)と波形を確認 |
モーター制御 | キャプスタンやリール制御信号 | パルス・矩形波などの正確な動作確認 |
電源確認 | DCラインにリプルがないか | コンデンサ劣化などによるノイズの有無を判断 |
どんなオシロスコープを選べば良い?
オシロスコープは高いものだと何十万もします。
びっくりしますよね。
しかし、最近では中国製の安価なものや、そもそもモニターはPCのものを使うというUSBタイプのオシロスコープもあり、モニターレス機の場合は一万円を切る価格で手に入れることもできます。
▷ 推奨スペック
項目 | 内容 |
帯域幅 | 20MHz以上(録音バイアス波形に対応) |
チャンネル数 | 2ch(ステレオ波形比較に有利) |
サンプリング速度 | 100MS/s以上 |
種類 | デジタルストレージタイプ(DSO)推奨 |
操作性 | 自立型ディスプレイ搭載モデルが使いやすい |
4chや8chのものもありますが、最初は2chで十分だと思います。
20MHz以上じゃないと、バイアス発振器の測定ができません。
バイアス発振器に異常があると、そもそも消去ヘッドが機能しなくなるので、録音しても前のテープが完全に消えずにゴーストと呼ばれる現象が起きたりし、再生専用機になってしまいますので注意です!
基本的な使い方
▷ 手順
- 電源ON・オートセット
- プローブをキャリブレーション端子に接続し、波形が正しく出るか確認
- プローブを測定ポイントに接続(GNDと信号)
- スケール調整:時間軸・電圧軸を適切に設定
- トリガーを調整して波形を安定化
▷ 例:再生アンプ出力の確認
- 操作:再生中に再生アンプの出力ラインに接続
- 波形:滑らかなアナログ波形(正弦波や複雑な音声波形)
- 異常例:波形が左右で極端に違う、ノイズが混ざる
波形の読み方の基本
波形の形状から、オープンリール回路の状態を視覚的に読み取ることが可能です。ここでは典型的な波形とそれが示す状態を解説します。
▷ 基本波形の種類と意味
波形の特徴 | 状態 | 対応策 |
正弦波(なめらかな曲線) | 音声信号の正常出力 | 問題なし |
矩形波(四角い波) | モーター制御やデジタルパルス信号 | パルス幅や周期を確認 |
三角波 | ランプ信号やフィードバック制御波形 | 目的信号に応じて正常か判断 |
ノコギリ波 | 特定の制御電圧波形やフェーダー制御 | 出力のリニア性をチェック |
▷ 異常波形のサイン
波形の様子 | 疑われる異常 | 修理の方向性 |
ギザギザや高周波ノイズ混入 | 電源ノイズ、グラウンド不良 | 電源フィルタ・接地見直し |
波形が途切れる/揺れる | トリガ設定ミス、接触不良 | プローブ・トリガー再確認 |
DCラインにノコギリ状のゆらぎ | 電源リプル(コンデンサ劣化) | 電解コンデンサ交換 |
ステレオ左右で波形が違う | アンプ回路やカップリング不良 | チャンネル別に追跡測定 |
よくある測定ポイント(Revox B77の場合)
測定箇所 | 測定モード | コメント |
再生アンプ出力 | ACカップリング | 音声波形を確認 |
録音バイアス回路 | ACカップリング | 高周波の発振状態確認(約100kHz) |
キャプスタンモーター制御基板 | DCカップリング | PWMやパルスの波形確認 |
電源端子(+24V) | DCカップリング | リプル・ノイズの有無確認 |
おわりに
オープンリール修理において、オシロスコープは「見えない電気の流れを可視化する顕微鏡」のような存在です。
慣れれば、耳では聞こえない問題を事前に察知できるようになり、修理・調整の精度が格段に向上します。
ぜひ1台導入して、あなたの修理技術をワンランクアップさせてください!
最後にB77のキャプスタンモーターの基盤の測定手順を参考例としてご紹介しておわりにしましょう。
実践ガイド:キャプスタンモーター制御基板の測定方法(Revox B77)
▷ 目的
キャプスタンモーターが正しく回転していない場合、制御基板からの信号(パルス/PWM)が出力されているかを確認する。
▷ 必要な準備
- オシロスコープ本体
- 1:10プローブ
- サービスマニュアルまたは回路図(1.177.325 / 326 / 327基板)
▷ 測定手順
- 安全確認:電源投入前にシャーシを接地。感電防止のため絶縁ゴム手袋などを使用。
- 電源投入:B77の電源を入れ、アイドリング状態にしておく。
- GNDの取り方:本体の金属シャーシにプローブのグラウンドをクリップ。
- 測定ポイント接続:キャプスタン制御基板上のトランジスタやICの出力端子(例:PWM出力やドライバトランジスタのベース)にプローブを接続。
- オシロ設定:
- DCカップリング
- 電圧軸:2V/div前後
- 時間軸:1ms/div〜50us/div(波形が速い場合)
- トリガー:立ち上がり・Auto
- 波形の確認:
- パルス波形(矩形波)が周期的に表示されていれば正常
- 平坦な直線や不安定な波形 → 制御回路またはモーター異常の可能性
▷ よくある異常例
- 信号が出ていない → トランジスタ不良、IC故障
- 信号が途中で乱れる → フィルムコンデンサ劣化、電源電圧変動

音楽家:朝比奈幸太郎
神戸生まれ。2025 年、40 年近く住んだ神戸を離れ北海道・十勝へ移住。
録音エンジニア五島昭彦氏より金田式バランス電流伝送 DC 録音技術を承継し、
ヴィンテージ機材で高品位録音を実践。
ヒーリング音響ブランド「Curanz Sounds」でソルフェジオ周波数音源を配信。
“音の文化を未来へ”届ける活動を展開中。