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Revox B77は堅牢な名機ですが、経年劣化で最もトラブルが出やすいのが「ブレーキ系統」です。
- 早送り・巻き戻しから停止した際、テープがたるんでしまう
- ブレーキの効きが悪く、リールが止まりきらない
- 逆にブレーキが引きずって音がふらつく
これらの症状は、ブレーキドラムの汚れやブレーキバンドの劣化が主な原因です。
正しいブレーキアセンブリの取り外し手順と、絶対にやってはいけない注意点を解説します。
作業前の準備と注意点
この作業はデリケートな部品を扱います。
以下の点に注意してください。
- 必須ツール: 適切なサイズのマイナス・プラスドライバー
- 【最重要】 ブレーキライニング(摩擦材)には、指の油分を含め油類を絶対に付着させないこと。
- 【最重要】 ブレーキバンド(金属帯)を絶対に折り曲げないこと。
手順解説:ブレーキアセンブリの取り外し (Section 3.6)

サービスマニュアルの「3.6. Removal of brake assembly」に従って作業を進めます。
1. 下準備
まずは基本の分解です。レコーダーをウッドケースから取り出し、フロントパネルを外しておきます(マニュアル Section 3.1, 3.2参照)。
2. リール台とカウンターベルトの取り外し
左右のリール台(Reel supports)を取り外します。
それぞれ3本の固定ネジ(図の9番)で止まっています。
この際、カウンタープーリーにかかっているカウンタードライブベルトも忘れずに外しておきましょう。無理に引っ張るとベルトが伸びてしまうので注意してください。
ちなみにこのネジは精密ドライバーじゃないと厳しいです。
また経年劣化(膨張率の変化)で変形している場合は、インパクトドライバーを使って修復できました。
3. ブレーキドラムの引き抜き

ここが最初の難関です。
- 中央の取り付けネジ(図の7)を取り外します。
- コツ: そのまま引っ張っても外れにくい場合があります。ブレーキリフト機構(ブレーキを解除するレバー)を手で動かし、ブレーキバンドを広げた状態にします。
- その状態で、ブレーキドラムを「ドッグワッシャー(爪付きワッシャー)」と一緒にモーターシャフトから慎重に引き抜きます。
ここに注意!ドラムを引き抜く際、ブレーキバンドを引っ掛けて変形させないよう細心の注意を払ってください。
4. ブレーキアセンブリ本体の取り外し
ドラムが外れたら、ブレーキ機構全体(アセンブリ)を取り外します。
- 配線の処理: ブレーキソレノイドに繋がっている2本の配線(紫・灰)を引き抜きます。
- ネジを外す: アセンブリを固定している3本のネジ(図番8)を緩めます。
- シャーシからアセンブリ全体を慎重に取り出します。
【重要】レストア時の禁止事項とメンテナンスのコツ
マニュアルには、この工程における強い警告が記載されています。
🚫 絶対にやってはいけないこと
- ブレーキバンドを折る(Kink): 金属製のバンドは一度折れ目がつくと、真円が出なくなりブレーキ性能が回復不能になります。
- ライニングに触れる: 摩擦材に手の脂がつくだけで、ブレーキの摩擦係数が変わり、「滑り」の原因になります。
🛠️ クリーニングのポイント
取り外したブレーキドラムとバンドの内側(ライニング)は、長年の使用で摩耗粉や汚れが付着しています。
- 表面がツルツルに硬化(グレージング)してしまっている場合は、極細のサンドペーパーで軽く表面を荒らす処理が必要な場合もありますが、まずは清掃から始めましょう。
交換するのも一つの手。
具体的にどうやってレストア、交換するのか?
Revox B77のブレーキ不調の原因は、主に「汚れ・油分」か「摩擦材の硬化(グレージング)」のどちらかです。
これを取り除く作業がレストアの中心になります。
Step 1: クリーニング(基本)
最も重要な工程です。
マニュアルにも「油分厳禁」とある通り、脱脂を徹底します。
- ブレーキドラム(金属側):
- 無水エタノール(IPA)を浸したキムワイプや綿棒で、内側の接触面を徹底的に拭きます。黒い汚れがつかなくなるまで行います。
- ブレーキライニング(バンド側の摩擦材):
- ここもエタノールで軽く拭きますが、強く擦りすぎないように注意します。ボロボロ崩れるようであれば、後述の「交換」が必要です。
Step 2: 表面の「目荒らし」(効果絶大)
長年の使用で摩擦面がツルツルになり、ブレーキが滑っている場合に行う定番の処置です。
- 用意するもの: 400番〜800番程度のサンドペーパー(紙やすり)。
- 方法:
- ブレーキライニング(摩擦材)側も、表面の硬化した層を一皮むくイメージで、ごく軽く撫でるようにヤスリがけします。
- 注意: 削りすぎないこと。削りカスはエアダスター等で完全に除去してください。
Step 3: ブレーキバンドの整形
バンドが歪んでいる(真円が出ていない)と、ブレーキの効きムラ(片効き)が起きます。
- 目視で極端な歪みがある場合のみ、指で慎重に修正して真円に近づけます。(※金属疲労で折れやすいため、難易度が高い作業です。自信がなければ触らないのが無難です)
ブレーキパーツの入手
純正部品はすでに生産終了しているため、以下のルートで入手するのが一般的です。
A. 専門店から「レストアキット」を買う(推奨)
海外にはRevox専門のレストアパーツメーカーがあり、非常に品質が高いです。
- Nagravox (オーストラリア):
- 世界的に最も有名なRevoxレストアキットのサプライヤーです。
- 日本へも発送してくれます。
ブレーキライニングの張り替え(オーストラリアのショップに移動)
- Revox-Online (ドイツ):
- ここも信頼できるパーツショップです。
代用品を自作する(上級者向け)
部品が入手できない場合、適切な厚みと摩擦係数を持つ素材(バックスキン革や、コルクシート、フェルトなど)を細く切って代用するマニアもいますが、厚みが変わるとブレーキのタイミング調整がシビアになるため、初心者は専用キット(Nagravox等)の使用をお勧めします。
純正ブレーキライニングの分析とスペック

実機(Revox B77)から取り外したブレーキドラムおよびライニングの計測結果です。
代替品を探すための「設計図」として公開します。
1. 寸法データ (Dimensions)
最も重要なのは「幅」と「厚み」です。ここが狂うとドラムが収まらなかったり、ブレーキがスリップします。
- 幅 (Width):10mm
- 有効長 (Length):約220mm 〜 230mm
- ドラム外周が約190mm(φ60mm程度)。
- それに加え、写真のようにドラム(またはバンド)のスリットに折り込むための「のりしろ」が両端に必要です。余裕を持って230mmあれば1台分(左右で460mm)確保できます。

- 厚み (Thickness):推定 1.0mm 前後
- (※写真からの目視推定。代替品選定時に最もシビアな数値となるため、後ほどノギスで実測し0.1mm単位で合わせる必要があります)
2. 材質の特定 (Material Analysis)
- 構造:製織(Woven / クロス)タイプ
- 単なるゴムベルトではありません。繊維(綿やガラス繊維)を織り込み、摩擦係数を調整するための樹脂(オレンジ色の部分)を含浸させて硬化させたものです。
- 特徴:
- 表面に「織り目」があることで、適度な空気層ができ、急激なロックを防ぎつつ、確実な制動力を生み出します。
- ゴム系よりも耐摩耗性と耐熱性に優れています。
ジャストの幅がない場合は大きめを買ってカットするのが一番。
例えばまつうら工業の綿ベルト
Monotaroで商品を見る組み付け後の調整(キャリブレーション)

- もし規定のブレーキ力が得られない場合は、ブレーキシステム全体を点検してください。
- ブレーキライニング(摩擦材)とブレーキバンドは、完全に清潔で、油脂(オイルやグリス)の痕跡が一切ない状態でなければなりません。
- 汚れたブレーキライニングは「クロロテン(※)」で清掃できます。
- (※訳注:クロロテンは古い溶剤です。現代では無水エタノール/IPAで代用してください)
- 清掃後は、指でライニングに触れないように細心の注意を払ってください。
- ブレーキバンドには「折れ目(キンク)」があってはならず、ブレーキライニングの全幅にわたって接触している必要があります。
調整手順(重要)
ブレーキバンドやドラムを交換した後、またはブレーキ機構を脱着した後は、ブレーキリフトソレノイド(解除用電磁石)のストローク再調整が必要です。
- 動作確認:
- ソレノイドのプランジャー(可動鉄心)を手で押し込み、ブレーキを手動で持ち上げます(解除状態にします)。
- この時、左右両方のブレーキが「同時に」持ち上がるかどうかを観察してください。
- シャーシ位置の調整:
- もし同時に上がらない場合は、ブレーキシャーシを固定している3本のネジを緩めます。
- ブレーキシャーシ全体をずらして、両方のブレーキが同時に持ち上がる位置に調整します。
- 微調整(レバー曲げ):
- 必要であれば、ブレーキ調整レバーの片方をわずかに曲げて微調整します。
- ※注意:ブレーキ解除ソレノイドの位置決めを行うには、ソレノイドに通電する必要があります。
- 再生時のクリアランス調整(最重要):
- リールサポート(リール台)を取り外します。
- 「PLAY」ボタンを押し、そのままの状態を維持します(ソレノイドが引かれた状態になります)。
- ブレーキソレノイドの固定ネジを緩めます。
- ブレーキバンドがライニングに接触せず、ドラムが完全にフリーで回転する位置までソレノイドをずらして調整します。
- その位置でブレーキ解除ソレノイドを固定(ロック)します。
解説:このページのキモはここ!
1. 「同時リフト」の調整 (Simultaneous lifting)
ブレーキが解除されるとき、左右同時に開かないと、テープに一瞬変なテンションがかかり、テープが伸びたり痛んだりします。
マニュアルでは「シャーシごとの位置ずらし」と、それでもダメなら「レバーを物理的に曲げる(bending)」という荒技(しかし正規の手順)でタイミングを合わせろと指示しています。
- ラジオペンチ等で少しずつ慎重に曲げて調整します。
2. 「PLAY時のクリアランス」 (Free rotation)
再生中(PLAY)は、ブレーキバンドがドラムから浮いていなければなりません。
もし調整が甘いと、再生中にうっすらブレーキバンドがドラムに触れてしまい、「シャー…」という異音や、ワウフラッター(回転ムラ)の原因になります。
- 手順4にある通り、実際にPLAY状態にして(ソレノイドを吸引させて)、ドラムを手で回して「全く抵抗がない場所」を探してソレノイドを固定するのがコツです。