【ACモーター vs DCモーター 徹底解説】「50Hz専用」を関西で動かすと・・・

投稿者: | 2025年4月8日

「せっかく手に入れた憧れのヴィンテージ機器。だけど、“50Hz専用”だった——」

特に昔の日本製造の機材は50hz専用機が多い傾向にあります。

関西圏のような60Hz地域に住んでいる方にとっては、戸惑う方もいるかもしれません。

では、なぜ昔のオーディオ機器は“50Hz専用”が多かったのでしょうか?
そして、その背景にはどんな歴史や事情があったのでしょうか?

今回は、そんな素朴な疑問をじっくり掘り下げていきながら、50hz専用機の西日本での動作対応策や、50hz専用機を60hzで動かすとどうなるの?など、50hz・60hzにまつわる素朴な疑問を解決しながら進めていきます。

キーパーソン紹介

こうたろう

この記事を担当:こうたろう

1986年生まれ
音大卒業後日本、スウェーデン、ドイツにて音楽活動
ドイツで「ピアノとコントラバスのためのソナタ」をリリースし、ステファン・デザイアーからマルチマイクREC技術を学び帰国
金田式DC録音のスタジオにて音響学を学ぶ
独立後芸術工房Pinocoaを結成しアルゼンチンタンゴ音楽を専門にプロデュース
その後写真・映像スタジオで音響担当を経験し、写真を学ぶ
現在はヒーリングサウンド専門の音楽ブランド[Curanz Sounds]を立ち上げ、ピアニスト, 音響エンジニア, マルチメディアクリエーターとして活動中
当サイトでは音響エンジニアとしての経験、写真スタジオで学んだ経験を活かし、制作機材の解説や紹介をしています。
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交流モーターとDCモーター

まずは50hz、60hzが発生する交流モーターと、DCモーターの違いについて見ていきましょう。

交流(AC)モーターの仕組みと特徴

🔄 仕組み:

  • AC電源を与えると、内部の磁界が電源周波数に応じて回転し、それに同期してローター(回転子)が回転する
  • 一般的に「同期モーター」や「誘導モーター」が使われる

⚙ 主な特徴:

特徴カテゴリ 内容
電源依存性 電源周波数(50Hz/60Hz)により回転数が変わる
構造 シンプルで信頼性が高い、部品点数が少ない
制御性 回転速度の精密な制御は苦手
コスト 安価に製造可能で、大量生産向き
応答性 起動・停止時に慣性が大きく、反応が遅い傾向
代表採用例 AKAI GXシリーズ、REVOX A77などのキャプスタン駆動
[AC100V 50Hz] → [AC同期モーター] → [キャプスタン] → [テープ走行]
                                ↑
                          周波数で回転数決定

直流(DC)モーターの仕組みと特徴

🔄 仕組み:

  • 内部に永久磁石と電磁石があり、電流のON/OFFで磁界を作って回転
  • 多くは「ブラシ付きDCモーター」または「ブラシレスDCモーター」

⚙ 主な特徴:

特徴カテゴリ 内容
電源依存性 電源周波数に影響されず、安定した回転が可能
制御性 サーボ回路やセンサーとの連動で精密制御が可能
構造 ブラシ付き/ブラシレスなど複数形式あり、制御回路を含む
コスト ACモーターより高価になる傾向あり(制御回路含む)
応答性 起動・停止が速く、テープ制御に向いている
代表採用例 TEAC X-1000R、TASCAM 42、Technics RS-B100など
モーター種別 採用機器 用途 理由
AC同期モーター AKAI GXシリーズ、REVOX A77 キャプスタン駆動 周波数で回転数が決まり、安定した走行を実現
DCモーター TEAC X-1000R、TASCAM 42 キャプスタン+リール駆動 電子制御による高精度な速度維持と可変制御
視点 ACモーター DCモーター
周波数依存 あり(50Hz/60Hzで回転数が変わる) なし(電圧制御なので安定)
制御性 基本的に固定速度のみ サーボやセンサーと組み合わせて精密制御可能
構造 単純で壊れにくい 複雑で応答性に優れるが部品点数が多い
採用時代 主に1960〜70年代 1980年代以降の高級機で主流

DCモーターなのに50Hz/60Hz切り替えが必要なのはなぜか?

DENONのDP-1700のような一部のターンテーブルには、DCサーボモーター搭載機であっても「50Hz/60Hz切り替えスイッチ」が存在するモデルがあります。

これには、モーターの種類や構成、回転検出方法に関わる技術的な理由があります。

🔍 答えのポイント

  1. ✅ **「DCモーター」=「完全に商用電源周波数と無関係」ではない
  2. ✅ モーター駆動部はDCでも、「速度検出機構」がAC周波数に依存する場合がある
  3. ✅ 特にFG(周波数発電機)タイプや水晶発振未搭載モデルでは、50Hz/60Hz切替が不可欠

① DCモーター自体は周波数依存ではない

  • DCモーターは入力電圧(またはPWM制御信号)によって回転数が決まる
  • そのため、理論上は電源周波数(50Hz/60Hz)に影響されない

👉 ここまでは直感的な理解でOKです。

② では、なぜ切替が必要か?

それは、回転検出部が「周波数に依存」しているからです。

❗ DP-1700をはじめとする当時の一部DCターンテーブルでは:

  • サーボ制御に使われる基準信号(基準クロック)をACラインから取得していた
  • または、タイミングパルス(FG信号)を交流周波数ベースで発生させていた

➡︎ 結果として、50Hz地域と60Hz地域で「回転数の基準」がズレてしまうということが起こるわけです。

🧪 じゃあQuartzロック機はどうなる?

Quartz Lock(水晶発振)タイプでは、基準クロックを水晶で固定しているため、商用電源周波数に依存せず、50Hz/60Hz切替は不要になります。

昭和の工場は“関東基準”だった

今でこそ、製品は全国で同じスペックが当たり前になっていますが、
1970年代〜80年代当時、日本のオーディオメーカー(AKAI、TEAC、SONYなど)の工場の多くは関東エリアに集中していました。

関東といえば、言わずと知れた50Hz地域
当然、設計や動作確認も「50Hzの電源環境」が前提になっていたのです。

つまり、「まずは自社工場で正常に動くこと」が重要で、
西日本(60Hz地域)の電源環境は「現地で調整してね」という考え方が一般的でした。

“プーリー交換式”で全国対応…のはずだった

実は当時の多くのデッキは、「50Hz専用」または内部で切り替え可能なモデルが多く、物理的に切り替えられる設計になっていました。

仮に50hz専用機を購入したとしてもモーターに取り付けられた「プーリー(滑車)」を50Hz用と60Hz用で交換することで、回転数を調整できるようになっていたので、プーリーが付属していました。

ところが、現在中古で出回っているものに関しては、50hz専用機というのも珍しくありません。

加えてプーリーが残っていない…。

中古で出回っている個体の多くが、プーリーを紛失していたり、出荷時の50Hzプーリーのままになっていたりするんですね。

そのため、「50Hz専用」と表記されている中古機器が非常に多く見受けられます。
プーリー自体を中古パーツとして探すか、コンバーターを使うか、あるいは、関東に引っ越すか・・・しかないのが現状です。

なぜ関西向けモデルは少なかったのか?

関西は今でも60Hz地域ですが、当時のマーケティングとしては、東京・名古屋を中心とした東日本の市場が先行していたため、初期ロットや主力販売モデルがまず50Hz対応で生産されていました。

さらに、60Hz向けは需要が少なく、在庫も限られたため、結果的に「市場にあまり出回っていない」という状況が生まれたのです。

50hz専用機をそのまま西日本で使うとどうなる?

▶ 結論:そのまま関西(60Hz地域)で使用すると、テープの再生速度が速くなり、音が高くなります。

しかもただの「ちょっと速い」ではなく、12.5%も速くなります
これは音楽的には半音以上の音程差になるほどの大きな変化です。

オーディオで50hzから60hzの違いが発生するということはレコードプレーヤーかオープンリールなどになってくるかと思いますが、それはそれはかなりの違いがあるわけですね。

検索でお越しくださった方のために先に伝えておきますと、50hz専用機を関西で起動したとしても決して壊れたりしないので、そこは安心してください。

❶ 周波数が異なると何が起きるのか?

例えばAKAI GX-4440DはAC同期モーターを使っています。
これは電源周波数(50Hz or 60Hz)に合わせてモーターの回転数が決まるタイプ。

🔧 つまり、キャプスタンが意図したより速く回る → テープが速く走る → 再生速度が上がるということ。

AKAI GX-4440Dは50hz専用機と切り替えができるモデルが売っています。
筆者が使っているのが切り替えタイプのもの。

写真のように、前面と背面の二箇所を切り替えます。

昔の機械はマイナスドライバーが多いので、アナログオーディオやるならマイナスドライバーを用意しておきましょう。(できれば磁力を持てないプラスチックなどの材質が望ましい)

❷ 音の変化はどれくらい?

実際に体感される変化は以下の通り:

  • 音楽が12.5%高速化(例えば60分のテープが約53分で終わる)
  • 音程が約「全音」上がる(A=440HzがA♯〜Bあたりに聞こえる)
  • 声や楽器の音がキンキンした違和感のある音になる

音楽鑑賞用途ではまずそのままでは使えないレベルの変化です。

❸ 録音時にも悪影響がある?

はい、録音にも問題があります。

  • 録音スピードが速いため、再生時に逆に遅く・低く聞こえてしまう(録音と再生の速度不一致)
  • Dolby NRなどのスピード依存回路も正しく動作しない
  • ワウフラッター(回転ムラ)も本来より増幅されるリスクあり

プーリー交換?インバーター?その対策とは

もし手元の機器が50Hzプーリーのままだったとしても、慌てる必要はありません。

選べる対策は主に2つ:

  1. 60Hz用プーリーに交換する(可能なら最善)
  2. 周波数変換器(インバーター)を使って、50Hz電源を作る(コスト高)

インバーターは基本的に1万円以上のものが軸になってくるためあまり現実的ではありません。

そのため、中古でレコードプレーヤーやオープンリールテープを購入する際はしっかりと50hz、60hzを確認してから購入しましょう。

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